2018 Fiscal Year Research-status Report
旧ベトナム共和国のベトナム語・1975年を境とする連続と非連続
Project/Area Number |
17K02763
|
Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
田原 洋樹 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 教授 (60331138)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ベトナム語 / 旧ベトナム共和国 / 言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. ベトナム本国およびアメリカ合衆国カリフォルニア州での調査を実施した。具体的には、それぞれで60歳台以上の人々(旧ベトナム共和国で中等教育を受けた世代)、なかんずく学者・研究者およびマスコミ関係者をはじめとする知識人や宗教関係者、作家や音楽家などの表現活動を行っている人々への聞き取り調査である。また、作家や音楽家および大学関係者と意見交換会を実施し、さらに音楽や美術の発表会に参加して、研究成果の一部を発表した。さらに、州内の大学2校で現役大学生に講演した。 2. 劇的な体制転換や社会変化を反映した言語変容、そして旧体制下の言語文化を堅持したいというベトナム系住民の矜持を強く感じることができた。日常会話、メディアに表出するベトナム語に対する当事者の意識は、基礎調査を始めた5年前に比較すると格段に変化してきている。インターネット空間に多く存在する公開ならびに非公開のグループで、旧ベトナム共和国のベトナム語表現に関する議論が積極的になされたり、戦後世代の若者や最近の移民が旧ベトナム共和国の言語事情、そして個別の言語表現に関するやり取り(「この語は75年以前にも使っていたか」「これは75年以前にはどういう語で表現していたか」などの、世代間の質疑応答)が活発に行われている。反共、反政府という政治的立場のみではなく、また単なる懐古趣味でもなく、純粋な関心を集めるようになった点にも着目して、調査してきた。この成果は、カリフォルニア州および台湾における講演ならびに口頭発表で明らかにすることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.現地での調査活動は順調に実施できた。 2.研究テーマに興味を示す人が多くなり、メディアにインタビューを受ける回数も増えた。これに伴い、自ら進んで話をしてくれる人も出てくるようになり、その内容吟味は当然に重要ではあるが、出身地、職業、学歴などの面で多様なバックグラウンドを持つ人々をインフォーマントとして擁することができた。引き続き、「失われた国の言語」を記述するラストチャンスという危機感は共有しながらも、政治的中立を保つことができる外国人研究者という立場を大切にして、冷静に遂行していきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.当初計画に即して、言語動態の多角的な観察によって、1975年4月30日を境にベトナム本国内では消えていった語彙、話法およびコミュニケーションスタイルを記録していく。 2.今年度は、とりわけ文芸・メディア関係者は宗教人への聞き取りに力を入れる。文芸作品や歌謡曲の中には、今も本国で発禁措置が取られているものも少なからずあり、「消えていった」のではなく「消された」語彙や話法なども丹念に収集しておきたい。 3.引き続き「研究成果を現地に還元する」基本姿勢を一貫するために、カリフォルニア州内のベトナム語エスニックメディアへの中立な立場での出演、大学での研究報告にも力を入れたい。
|