2017 Fiscal Year Research-status Report
中世室町語を源流とする長崎方言の文法的形式の成立と意味的変遷過程に関する研究
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17K02781
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
前田 桂子 長崎大学, 教育学部, 准教授 (90259630)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 長崎方言 / 中世室町語 / バイ / 藪路木島 / 古典導入教材 / 助詞助動詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の活動は以下の通りである。 <1 研究発表>本研究の目的である長崎における話し言葉の骨格をなす終助詞バイの成立過程を明らかにした。バイ以前に近世に「バ」があり、終助詞を下接してバナ、バヨ、バイなどが作られたが、バイが優勢と成り、さらに大正末年の頃にはバイノ、バイノウシのように若年層を中心にバリエーションが形成された。また、近世から大正期まで見られたバイ、バナ、バノ、バンなどの使用に位相差や待遇差が確認できた。中でもバナは目下に対する女性中心の使用、バン、バノは年少者に対する用法として使われていた。以上は、筑紫日本語学研究会で「長崎方言のバイ類の変遷について」と題して発表した。バイは、中世室町語と現代長崎方言をつなぐ語として、中心的なテーマである。今後、バ、タイ、ケン、ゴタル、ゲナなどの中核的な長崎方言研究を順次進めていき、これらの方言が根強く使用されている理由を探りたい。 <2 言語資料の整備と調査>長崎県北松浦郡小値賀町藪路木島の方言13000語の手書き資料を活字化し、データベースを作成するとともに方言集として出版した。本資料は、昭和40年代当時の藪路木島の方言を保存するものとして貴重である。今年度は五島地域の方言調査を計画していたが、藪路木島方言の情報提供者の出現によって予定を変更した。方言集完成後は、インフォーマントに個個の事象について聞き取り調査を行い、音声の録音と整備を行っている状況である。 <3 方言を利用した古典教育>本研究の目的に掲げた古典導入教材に方言を応用する取り組みも行った。長崎大学教育学部附属中学校において、長崎方言と古語の文法的共通点について授業を行った。古典文法と現代語との間に位置する体系を持った長崎方言の学習が、中学生の古典学習に効果的であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は5年間の予定で計画しているが、初年度としては、ほぼ目的に沿った研究活動が進められた。まず長崎方言の歴史的研究においては、バイを取り上げ、近世以降現代までの随筆や小説類の文献調査を行い、方言形の成立過程や話者の位相・待遇表現に関わる表現性について分析ができた[1]。また、中学生の古典学習の導入教材とする研究においても、中学校において2回の授業を設定し、その後のレポートの反応を分析し、教材としてのポイントが分析できた。年度当初は現代語としての長崎方言の実地調査のため五島を訪れる予定であったが、藪路木島方言話者との出会いによって、方言語彙の収集と聞き取り調査を効率よく進められ、実地調査に代えた。学会発表については、本年度に新たに調査したテーマではなかったものの、報告者が継続的に行っている近世長崎方言に関わるブース発表を、日本語学会秋季大会に於いて行った[2]。 なお、当初の計画では平成29年度は格助詞バ、ノに関する調査をする予定であったが、平成30年度の予定と入れ替え、バイに関する研究を行った。全体の進行に大きな遅れはなく、概ね順調であると判断している。 注 [1] 「長崎方言のバイ類の変遷について―近世近代の長崎資料を中心に―」第271回筑紫日本語研究会(平成29年8月8,9,10日) [2]「方言条件形式の多様性-九州方言を中心に-」有田節子・岩田美穂・江口正・前田桂子
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、次の予定で研究を進めたい。 ①平成29年度のテーマであるバイに関する論文の発表、②長崎方言の中における格助詞バ、ノに関する調査研究および学会発表、③藪路木島方言集から中世室町語源流の長崎方言方言を調査、④藪路木島が属する五島列島の方言調査、⑤方言と古典語をつなぐ中学校の古典導入教材の研究、である。
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Causes of Carryover |
平成29年度に予定していた、五島列島への方言調査を30年度以降に変更したため。30年度は29年度に予定していた五島への1泊2日の方言調査を2泊3日に延長し、実施する予定である。その他の部分については、当初の計画通りである。 変更後の使用計画は、以下の通りである。書籍代(200)、消耗品費(50)、旅費(350)、人件費・その他(60)、その他(30)
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Research Products
(6 results)