2017 Fiscal Year Research-status Report
名詞項パラメータ化仮説の検証に基づく名詞項構造の普遍的性質の解明
Project/Area Number |
17K02809
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
越智 正男 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (50324835)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮本 陽一 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (50301271)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 類別詞 / 名詞句 / 統語論 / 日本語 / パラメータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトの目的は生成文法理論における名詞項パラメータ化仮説(Chierchia 1998, NLS等)の批判的な検証を通して、名詞項構造の普遍的な性質を明らかにすることである。研究初年度である本年度は日本語及び他言語の名詞修飾句及び修飾節の振る舞い及びその統語構造に焦点を当てた研究に着手した。 1. まず名詞代用形の「の」に関して統語部門における「ラベル付け」操作の観点からの分析を試みた。名詞代用形の「の」には修飾句の存在が必須であるが、量化句は他の修飾句とは異なり上述の「の」の生起条件に寄与できないことが従来より指摘されてきた。この点について大半の先行研究が量化句が占める統語的位置に基づく分析を提示しているのに対して、本研究ではそのような分析に対する反例を提示した上で、量化子句の例外的とも言える振る舞いをその「一致特性」に求めるという理論的方向性を模索した。これは日本語の部分詞に関する近年の先行研究の知見に基づくものである。統語的な「一致現象」を欠くと見做されがちな日本語において「一致特性」が持つ理論的意義を「ラベル付け」操作の観点から考察し、量化句と名詞との併合のラベル付けには数素性の共有が関与している旨の仮説を立てた上で、「の」句の領域における量化句の特殊な振る舞いに対する説明を試みた。 2. 名詞修飾節に関しては関係節の分析を中心に研究を遂行した。特にMiyamoto (2017)の分析に基づき、モンゴル語の関係節を研究対象とした。その結果、この言語の関係節における再構築の有無を、照応形ならびにイデオムの解釈の有無から検討し、関係節内の演算子(Op)移動が節を越えては起こらないことを明らかにした。また、モンゴル語において関係節がN'削除を牽引できないことを発見し、関係節が主要部移動を経て構築されていないことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果によれば、日本語の名詞句領域において「一致特性」(特に数素性)が統語的に重要な役割を果たしている場合があることになる。これは上述の名詞項パラメータ仮説の検証に対して重要な示唆を持つ。また今年度の研究により類別詞と名詞の間に統語的な一致関係があるとする旨の仮説の有用性についても示唆が得られた。さらに上述の成果に加えて、海外研究協力者のC.-T. James Huang博士の協力を得て日本語と中国語の否定極性表現(特に最小化詞)の統語と意味についての調査を行い、日本語の量化要素である「さえ」及び「も」と中国語の量化要素の「連(lian)」及び「都(dou)」の対照分析の可能性を探ることにも着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究成果を踏まえて、次年度は以下の二点を中心に研究を遂行する予定である。第一に、名詞修飾節と名詞項内部の機能範疇領域に関する調査を行う。特に日本語や中国語の名詞修飾節の内部構造に関する調査を中心に行う予定である。第二に、類別詞と複数形態素に関連する諸問題 (例:両者間の相補分布及び中国語の複数形と定性解釈の関係) の調査を研究を行う。これらの調査は上述のパラメータ化仮説の検証及び名詞句構造の普遍的性質の解明に大変重要なものである。
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Causes of Carryover |
本年度は中国語の名詞句構造の調査のために海外研究協力者のC.-T. James Huang博士(ハーバード大学)との面談及び共同研究の話し合いの機会を持ったが、これを米国ではなくアジア(香港)で行うことができたために旅費をある程度削減することができた。来年度以降は同氏との打ち合わせのために(当初の予定通り)米国へ調査旅行に赴くことになる。
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Research Products
(3 results)