2020 Fiscal Year Research-status Report
A Syntactic Study on the Diachronic Development of English Psych-Verbs: With Special Reference to Argument Realization and Grammaticalization
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17K02812
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
縄田 裕幸 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (00325036)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 統語論 / 英語史 / 心理動詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,本研究のこれまでの成果の妥当性を検証するために調査対象を拡大して追試を行なった。具体的には,古英語・初期中英語の心理動詞構文でも用いられた空主語の認可と消失について,コーパスを用いた実証的調査と先行研究をふまえた理論的分析を行なった。その結果,以下の内容を論文(縄田 (2020))としてまとめた。 現代イタリア語などの均質的空主語言語と比較して古英語から初期中英語にかけての空主語の生起は質的にも量的にも非常に限定されており,一部の話者がV1環境で三人称解釈の空主語を随意的に許したにすぎなかった。そこから,本研究では初期英語を「局所的空主語言語」として特徴づけた。また注目すべき点として,英語における空主語の消失が主節におけるV2語順の消失とほぼ一致するという事実が挙げられる。このような経験的事実をふまえ,本研究では英語の空主語が人称素性を欠いた代名詞的要素(DPdef)であり,節の左方周辺部にある話題句(TopP)の指定部まで移動して談話レベルの話題連鎖の一部となることで解釈されると提案した。「一部の話者がV1環境で三人称解釈の空主語を随意的に許す」という初期英語の空主語の分布の「局所性」は,(i)人称素性のデフォルト一致を許す話者と許さない話者がいたこと,(ii) V1環境でのみDPdefが話題句指定部に移動できたこと,(iii) 話題連鎖で三人称解釈を受けたときのみ時制句(FinP)内部で人称の値が矛盾しなかったことから生じた。また後期中英語で空主語が消失したのは,動詞の人称素性とDPdefのデフォルト一致が不可能になったためである。このような本研究の分析は,Roberts (2019) が提案する「空主語パラメター階層」による分析と異なり,多くの言語で空主語が失われる方向で変化するという一般的な傾向を正しく捉えられるという利点がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の成果を含む共著書を2020年度中に出版予定であったが,共著者の都合等により執筆期間が延長された。それにともない研究期間もさらに1年延長し,2021年度の出版を目指して準備を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はこれまで主節の語順に注目して心理動詞の項の具現化を分析してきたが,研究最終年度である2021年度は従属節,とりわけ関係節に焦点を当てて分析を行う。先行研究 (内田 (2020))において古英語から初期中英語にかけて観察された主格ゼロ関係節が空代名詞を主語とする構造として認可されていたと主張されており,本研究の成果に照らしてその妥当性を検証する。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」でも触れたとおり,本研究課題の成果を含む共著書の執筆期間が延長された。そこで,研究費を計画的に使用して研究期間を1年延長し,追加の研究成果も盛り込んで2021年度中に出版できるよう準備を進めることにした。
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Research Products
(3 results)