2018 Fiscal Year Research-status Report
Synchronic and Diachronic Studies in English Off-glides
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17K02819
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
藤原 保明 筑波大学, 人文社会系(名誉教授), 名誉教授 (30040067)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 英語のわたり音 / 入りわたり / 出わたり / わたり音の機能 / 長母音化 / 二重母音化 / 単語を子音で閉ざす |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は在来語の音節と単語の多くはなぜ子音で閉ざされるのかを解明することにある。 平成30年度の研究実施計画は、古英語、中英語、近代英語に生じた主な母音変化を分析し、「出わたり」との関係を明らかにすることにあった。そこで、初期古英語の短母音の二重母音化(=「割れ」)、中期古英語の「子音連結の前での母音の長化」、後期古英語から中英語にかけての「3音節語の強勢母音の短化」、および中英語期の「開音節での長化」による長母音を分析した結果、新たな二重母音と長母音には「出わたり」は含まれないことが明らかとなった。一方、古英語末期から14世紀末までの二重母音化と、15~17世紀の「大母音推移」による二重母音と長母音を分析した結果、いずれにも「出わたり」が含まれることが明らかとなった。 これら2つの結果を総合すると、英語の長期にわたる音変化、とりわけ母音の長化と二重母音化には2種類あり、前半の変化には「わたり音」のうち「出わたり」は関与しないが、後半のすべての変化に「出わたり」が関与していることになる。このように際立った2種類の通時的音変化が生じたが、変化の方向としては、音と意味を担う独立した実体である英語の単語は、外国語から借用された語を除いて「在来語」は子音で終わる語はもとより、子音の機能を担う「出わたり」で終わる語も、すべて子音で閉ざされる方向で変化してきたといえる。 日本語の単語は漢語などの外来語を除けばすべて母音で終わるが、ドイツ語、フランス語、スペイン語などでは、単語は母音か子音のいずれかで終わる。ところが、外国語から借用された語を除いた在来語の英単語は子音で閉ざされる。豊富なデータに基づいて英単語を通時的かつ実証的に分析した結果、このように際立った特徴を浮かび上がらせることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
英語の「わたり音」のうち「入りわたり」は発音上も音韻論上も子音とみなされている。一方、長母音の後半部分と二重母音の第二要素は「出わたり」であるが、音声学では一般に母音とみなされている。しかし、直後に生じる母音で始まる語との関係(=「母音連続」)、および「わたり音」は弱くて短く、強勢を担うことがないという機能上の特徴から判断すると、わたり音は本来の母音とは異なる実体であることは明白である。このような音韻論的解釈は正当なものであり、この解釈に従えば、在来語の単語はすべて、子音のみならず、出わたりで終わる場合も、子音で閉ざされることになる。 これまでに得られた結果は、国内外の研究者が到達した従来の結論や解釈と変わるところはない。ただし、本研究は、英語が成立するはるか以前の先史時代のインド・ヨーロッパ祖語までさかのぼり、それ以降の主だった音変化を取り上げて分析し、それぞれの変化の時期・特徴・言語学的意義を大局的に考察することによって、英語の史的音変化の動機や方向性を解明していて、とりわけ、英語の史的音変化の中核に「わたり音」、とりわけ「出わたり」の機能を据えた分析は他に例がない。 幸い、本研究の独創的アプローチにより、英語のリズム単位は日本語やモンゴル語の子音+母音から成る「モーラ」ではなく、フランス語やスペイン語の子音+母音または母音から成る「音節」とも異なり、在来語はすべて子音で終わるということが突き止められたことから、言語の類型論的研究に影響を与え、英語の史的研究の取り組み方法にも変革を迫ることになる。 このように、本研究は英語の歴史的研究の方法論のみならず、言語単位の類型論的研究、音声学における通時的情報の必要性など、当初予測し得なかったような側面にまで影響を及ぼすかなり大きな成果を収めつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
音で意味を伝える独立した実体である英単語は、子音で閉ざす方向で変化してきたのであれば、それはどのような動機または原因によるのか考察せねばならない。英語を含む自然言語は人間とは異なり、意志や目的を持たないことから、意図的に変化することはあり得ない。しかし、千年以上にわたる英語の音変化に明確な方向性があったことから、少なくとも言語学的にその意義や原因を解明せねばならない。 それゆえ、今後の研究では、英語の音変化の方向付けに関わった要因を通時的に明らかにしていくことになる。とりわけ、10世紀の終わり頃までに出現した「あいまい母音」は弱くて短いにもかかわらず、母音の特性を維持して音節を形成しているが、同じく弱くて短い「わたり音」は、「入りわたり」も「出わたり」も共に子音の機能を果たしていることから、両者の機能の相違に焦点を当てた英語の通時的研究を行なえば、英語と他の言語との比較・対照に関わる興味深い事実が掘り起こせる可能性が高い。 しかし、英語は10世紀以前からさまざまな音変化を受けていること、印欧祖語からゲルマン語が分かれる時に、かなり重要ないくつかの特徴を獲得したことから、それらの特徴も併せて考察すると、より明確な変化の要因や方向性が見えてくるはずである。そこで、今年度は「あいまい母音」の出現以前の音変化も踏まえながら、英語の史的音変化のプロセスをより具体的に提示し、音変化を起こさせた要因を探ることにする。
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Causes of Carryover |
購入予定の書籍代が残額を上回ったので、次年度に購入する。
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Research Products
(6 results)