2017 Fiscal Year Research-status Report
Sociophonetic research on current accents of English in the North of England
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17K02821
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
三浦 弘 専修大学, 文学部, 教授 (00239188)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 音声・音韻 / 英語方言 / 発音変種 / 社会音声学 / 音声分析 / イングランド北部英語 / マン島英語 / マン島語 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度はリバプールとマン島の英語発音調査を行った。リバプールには1845~47年のアイルランドのジャガイモ飢饉の時に、アイルランドから数十万人の移民が移住し、リバプール英語発音はアイルランド語の影響を受けた発音、スカウスとして知られている。特に破裂音の軟化(摩擦音化)が顕著である。本研究課題の1つに「マン島語の影響があるマン島英語方言における近年のリバプール方言の影響」を設定したので、これから着手した。 リバプールでは、労働者階級が多い北部と中流階級が多い南部を比較するために、3つの公立図書館で会議室をお借りし、入館者や図書館関係者から音声を収録した。地区による相違は見られなかったが、出身階級による相違はあった。スカウスは労働者階級の方言に顕著であった。しかし、中流階級者の場合も、イングランド北部英語の特徴は保持していた。つまり、FOOT母音とSTRUT母音は分離しておらず、BATH母音の広母音化も見られなかった。 マン島では、マン島内数地区の住民9名の自宅を個別に訪問した。被験者の発音の中に、近年のリバプール方言の影響を見つけることは難しかったが、新しい影響というのは語彙にあることがわかった。また、一般にマン島語は最後の母語話者、ネッド・マドレル氏が1974年に他界して死語となったと言われているが、マドレル氏は英語が話せなかった最後の住民だっただけで、バイリンガル話者は健在であった。9名の被験者全員がある程度のマン島語が話せ、内3名は母語同然の流暢なマン島語話者であった。マン島英語にはマン島語の影響が著しく見られ、地区による相違もあった。印象的だったことは、マン島英語はウェールズ英語やアイルランド英語とは異なり、イギリスの標準英語が流入したものではなく、イングランド北部英語が母体となっていることを実感した。結果的に新たな研究テーマが複数見つかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リバプールで収録した音声の分析を行った。収録時の仮説では、リバプールの北部と南部で方言差があると見込んだが、それは地域差ではなく、階級差であった。リバプール英語(スカウス)の特徴は労働者階級に強く現われ、中流階級の英語はリバプール周辺のマージーサイド州に共通する音韻体系であった。ちなみにビートルズはリバプール出身であるが、ジョン・レノンの歌がどうして聴き取りやすいのかも納得できた。彼が5歳から23歳まで暮らしたミミ叔母さんの家はリバプール南部の大きな家が並ぶ中流階級の住宅街にあった。つまり、ジョン・レノンの英語はマージーサイド中流英語だったのである。例えば、「イマジン」の第1スタンザにある24語の内、イングランド北部訛りが強く出ているのは、above 1語だけである。FOOT母音とSTRUT母音の分離は、イングランド南部英語にだけ生じたものなので、イングランド北部英語では、「アバヴ」ではなく、「アボヴ」となる。(スペル通りの発音になるから、日本の中学生には却ってわかりやすい。) マン島英語の音声分析からはスカウスの影響は見られなかった。スカウスはアイルランド語の影響を受けたものである。マン島語は元来ゴイデリック(アイルランドのケルト語)がマン島に渡ったものであるとみなされているが、マン島英語では子音の軟化が弱い。それよりもマン島こそ、北部と南部で発音に相違がある。インタビューの中で住民の意識にも北部人と南部人のアイデンティティーの違いが感じられた。マン島では1872年からすべての学校教育が英語で行われるようになり、マン島語の衰退の要因ともなったが、学校は島の主要教会区(parish)にしかなく、各教会区にマン島英語の(おそらくマン島語にも)方言差が発達したものと思われる。マン島での収録調査は中4日だけであったが、実際に現地へ赴くと多くの発見があり、新しいテーマも見つかった。
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Strategy for Future Research Activity |
マン島英語の元来の母体がイングランド北部英語であることを平成29年度の実地調査で実感できたことは大きな収穫であった。ウェールズ英語もスコットランド英語(スコッツ語を除く)もアイルランド英語もコーンウォール英語も、イギリスの標準英語、つまり、イングランド南部英語が母体であった。リバプールとマンチェスターを含むイングランド北西部英語の現状調査を本研究の中心とすることは当初の予定通りであるが、イングランド北部英語の中でもイングランド北西部英語がマン島英語の由来となったと思われるので、今後はランカシャー英語発音の地域差の発見にも尽力する。リバプールも1974年の行政区画改正前はランカシャー州にあったので、特にランカシャー英語には注目したい。 イングランド北部は、北西部、ヨークシャー(中南部)、北東部に大きく3分割できるので、今後2年間の研究期間では北西部とヨークシャーの調査を優先させることにする。
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Causes of Carryover |
次年度の支払予定額が当該年度よりも少なかったため、次年度の調査研究を円滑に進めるために節約して繰り越した。
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Remarks |
『実験音声学・言語学研究』第10号の論文PDFファイルには、出版当初の1年間のみ(2019年3月まで)パスワード(repl2018)が設定されている。
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Research Products
(12 results)