2017 Fiscal Year Research-status Report
インターフェイスにおける解釈システムの包括的研究「ラベル」「音」「意味」を中心に
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17K02823
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
小畑 美貴 法政大学, 生命科学部, 准教授 (80581694)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉村 美奈 京都ノートルダム女子大学, 人間文化学部, 准教授 (20707286)
中尾 千鶴 大東文化大学, 外国語学部, 講師 (90795642)
森田 千草 戸板女子短期大学, その他部局等, 講師(移行) (20736079)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 言語学 / 統語論 / 生成文法 / ラベル / 複合動詞 / 形容詞 / 否定極性項目 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ヒトに生得的に備わっているとされる「言語能力」の一部である「構造構築の仕組み」を明らかにする為に以下の2点に関して研究を行っている。①「併合(Merge)」により生成された統語表示がインターフェイスにおいてどのように解釈を受けるのか、②各個別言語が言語システム内でどのように区別されているのか、そのシステムの解明を目指す。 2017年度は以下の4点を中心に研究を行った。第一に、統語部門からインターフェイスへと橋渡しをする「転送」操作の適用メカニズムの解明に取り組んだ。Obata (2017)では転送は統語表示又はラベルのコピーを統語部門内に残すことで、インターフェイスへと統語表示を送ることを経験的に示した。第二に、併合によって生成された複合動詞(日本語)のラベル付けの問題に取り組んだ。Sugimura and Obata (2017)では、(インターフェイスで統語表示が解釈を受けるにはラベルが必要であるとする)Chomsky (2013)のラベル付けアルゴリズムの下で、複合動詞のラベル付けを適切に行うには、形態素レベルから統語派生を行う必要があることを経験的に示した。第三に、日本語や他言語の代表的な否定極性項目についての先行研究を調査し、Nakao (2018)では日本語の否定極性項目である「なにも」が項位置に現れる場合と付加詞として用いられる場合の意味および統語的振る舞いの差について検討した。第四に、日本語の名詞修飾要素のうち「い」形容詞と「な」形容詞の統語的・意味的特性を再考察し、こうした要素が従来指摘されてきたような間接修飾を行わない場合があることを、Morita (2018)において指摘した。 以上4点に関して研究を行うことで、インターフェイスにおける統語表示の解釈メカニズムの解明に取り組み、様々な言語データを使用することで多角的な検証を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、インターフェイスにおける統語表示の解釈システムを解明するために、「音」、「意味」、「ラベル」の3つの視点から研究を行っている。単独研究、共同研究ともに、この3つの視点をバランスよくカバーできており、統括的研究を行うことができている。 Obata (2017)では「ラベル」と統語操作の関係に注目して研究を行い、Sugimura and Obata (2017)では日本語複合動詞の「ラベル」及び「音」に関して研究を行っている。更に、Nakao (2018)では否定極性項目の「意味」と「音」の関係性に関して、Morita (2018)では形容詞の修飾関係の「意味」と「音」に関わる研究を行っている。「音」「意味」「ラベル」の3つの視点に関して満遍なく研究を行うことが出来ており、当初の予定通り包括的な研究が行えていると言える。 以上のように、初年度において既に多角的な視点で研究課題に取り組むことが出来ていると同時に、一定の研究成果も既に出ている。また、各研究者単独での研究を進めると同時に、研究代表者と分担者の共同研究にも積極的に取り組んでおり、非常に生産的な研究プロジェクトであると言える。よって、現時点での進捗状況は、おおむね順調であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、2017年度に取り組んだ研究を更に発展させ、積極的に国際学会において研究成果を発表する予定である。具体的な研究内容としては、以下の3つの研究が既に進行中で、今後、研究成果が十分に期待できると考えられる。第一に、「意味」と「音」に関して、統語表示の生成過程において、言語素性がどのように分布しているか、主に日本語の談話モーダル及び特定の動詞において見られる、主語の人称制限の現象に注目し、C及びTの間の素性継承がどのように行われているか、研究を行っている(杉村・小畑)。第二に、「意味」、「音」、「ラベル」に関して、ナ形容詞とイ形容詞の生成過程と意味の違いに注目し、形容詞の解釈及び発音形式の決定と「一致」操作の関係、及びその結果付与されるラベルとインターフェイスにおける解釈の関係を中心に研究を行っている。また、研究対象とする言語データを日本語からCape Verdean Creoleを含む他言語(フランス語、イタリア語、ドイツ語、オランダ語等)へと拡大し、多様な言語データによってシステムの検証を行う(森田・小畑)。第三に、「意味」と「音」に関して、Nakao (2018)では、付加詞の「なにも」の長距離認可の可能性に触れた。今後は否定極性項目に限らず、引き続き日本語においてどのような現象が局所的でどのような現象が長距離認可や島を超えた認可を許すかについて研究を行う(中尾)。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じたが、額としては少額であり、全体の使用計画に大きな影響はないと考えている。研究代表者及び分担者が必要な支出をおこなった後の端数である為、次年度の執行の際に、研究代表者が旅費及び書籍代の一部として使用予定である。
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