2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K02830
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
澤田 治美 関西外国語大学, 外国語学部, 名誉教授 (20020117)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | モダリティ / 倒置 / 語りのwhen節 / 意味論 / 語用論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の計画は、以下のようなものであった。(i)疑似法助動詞へのアプロ―チが疑似法助動詞の枠を超えて、関連する研究領域にも適用できるように一般化を図る。(ii)研究を言語教育や翻訳などにも応用する。これら(i)と(ii)の計画に関して、以下のような成果をあげることができた。 ①「モダリティの透明化をめぐってー疑似法助動詞have toを中心として」(澤田治美・仁田義雄・山梨正明(編)『場面と主体性・主観性』ひつじ書房、2019年)、②“Viewpoint and Ambiguity”(『モダリティワークショップ―モダリティに関する意味論的・語用論的研究―発表論文集』16: 5-27、2019年)、③「語りのwhen節」と倒置現象の意味論と語用論」、日本英文学会第91回大会シンポジウム発表(2019年5月26日、於:安田女子大学)。 ①は、疑似法助動詞have toの様々なバリエーションの解釈をめぐって「モダリティの透明化」という観点から論じ、「テンス・アスペクト・モダリティの転移効果」という観察を提示したものである。②は視点と多義性という観点から、主として英語のbecause節の意味解釈を論じたものである。③は、多義性を考慮に入れつつ、いわゆる「語りのwhen節」(narrative when-clause) について考察し、このタイプのwhen節に生起し得る「文体的倒置」(stylistic inversion)に焦点を当て、「倒置」という語順変化を引き起す要因(もしくは、動機)は、心理主体がwhen節の予期しない出来事に遭遇した際の「心理的インパクト」(psychological impact)にあることを明らかにしたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね順調である」と判断する理由は、以下の通りである。 研究成果として、2019年度においては、3本の論文、および、2件の研究発表をまとめることができた。これらの研究は、いずれも、モダリティ、視点、命題態度と深く関わっている。一見すると自律的に見える文法現象の背後には、事態に対する話し手の捉え方があり、その捉え方によって文法現象(透明化、倒置など)が引き起こされているという仮説がおおむね着実に実証できていると判断される。なぜなら、①疑似法助動詞の「透明化現象」の背後には、疑似法助動詞が表すモダリティの概念が希薄化・背景化されているということがあり、②because節の多義性は、because節を主節の事態に対する原因・理由と捉えるのか、主節の可能性に対する判断理由と捉えるのか、主節の言語行為に対する理由と捉えるのかということがあり、③「語りのwhen節」内の倒置には心理的インパクトが関与している、ということがあるからである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度においては、これまでの研究成果を活かす形で、以下の①と②の研究、ならびに、③の翻訳を予定している。①「「語りのwhen節」と心理的インパクト――文体的倒置を中心に――」『倒置現象と構文交替』(共著)開拓社、②「比較節と事態の捉え方」、③Oxford Companion to the English Language (2018)の翻訳を『英語百科大事典』と題して出版。 ②に関しては、以下のような比較文の多義性に対してアプローチする。比較文“Mary was more angry than she was sad. ”には、2つの解釈があるとされている。すなわち、 (1)「メアリーの怒りの程度は、彼女の悲しみの程度を超えていた」と(2)「メアリーは、悲しんでいたというよりむしろ怒っていた」である。(1)の解釈は、angry(=怒っている)と sad(=悲しんでいる)という2つの形容詞が表す感情の「程度」を比較しているが、(2)の解釈では、sad(=悲しんでいる)ではなく、angry(=怒っている)が選び取られている。こうした例は、比較節には事態・命題内容に対する概念主体の捉え方が関与していることを如実に示している。今後の研究として、モダリティと比較構文の関係について研究を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの蔓延のために、2020年3月に開催予定であったモダリティワークショップが中止になった。それにより、当初の予定と異なり、海外から研究者を招聘する費用や発表論文集を作成する費用を使用できなかったために次年度使用額が生じた。次年度に、モダリティワークショップを開催する予定である。
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Research Products
(4 results)