2017 Fiscal Year Research-status Report
日本語分析における意味特徴の分析と明示的説明を支える対比技術の研究
Project/Area Number |
17K02850
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
坂口 和寛 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (70303485)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 類義表現 / 意味分析 / 対比 / 日本語分析ストラテジー / 日本語母語話者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度までに実施した調査で得たテキストデータを分析し、非日本語教師の日本語母語話者である日本人大学生73名の自然な類義表現分析と、そこでの対比を用いた意味特徴説明の手続きを探った。データは、類義表現対「っぱなし/まま」に関する例文4文の分析と、それをふまえた意味分析に関する記述である。テキストデータの処理・加工の方法を変更し、追加調査で得たデータも加え再分析した。意味分析の成否で調査協力者を上位群と下位群に分けたうえで類義表現対の意味特徴説明を観察し、対比により差異を際立たせて弁別的意味特徴を把握しようとする分析手続きの有無を探った。それに先立ち、対比による意味説明を探る手がかりとするため、例文分析での描写内容を言語的側面から明らかにした。テキストマイニングの手法で抽出した例文分析記述の言語要素からは、例文の情景や主体行動を具体的に描写する上位群の傾向と、抽象的もしくは簡潔な描写で情報量が少ない下位群の傾向が把握できた。 意味特徴分析では、類義表現対の共通意味に言及し、それを基点に対比により差異を明確化する手続きが両群に見られる。ただし上位群は、対比の観点が一つに限定されず、類義表現固有の意味にも言及する。意味特徴説明がより詳細で、情報量も相対的に多い。一方、意味説明の不十分な下位群は、対比の観点が固定的で限定的な傾向がある。また、例文とその分析内容が、意味特徴説明における限定的な対比に影響している可能性が指摘できる。 意味特徴分析記述からテキストマイニングで抽出した言語要素と基に、意味特徴分析での対比行動を示す語句の特定を試みた。結果、「(の)ほうが」「(の)に対して」という表現形式や格助詞「より」の使用が、対比による分析を把握する明示的な言語的マーカーになりうることも把握できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度は、前年度までの調査で得たデータを対象として再分析した。2016年度までの研究では、日本人大学生40名分のデータを対象に、日本語分析技術の熟達度が低い日本人大学生が行う正用文分析とその描写内容を中心に探った。2017年度はこのデータに、未整理だったデータ35名分を加え、同調査で課した意味特徴分析に関する記述データを中心に分析を進めた。また、日本人大学生の正用文分析内容を観察するために前年度までの研究でテキストマイニングの手法について、その運用上の問題点を解決して効果的・効率的に分析できるよう、2017度はテキストデータを処理し言語要素を抽出する方法や言語要素の認定基準を再検討した。それにより、日本人大学生による類義表現対の意味特徴分析とそこで採られる対比の実態を把握することを試みた。一方で、追加分を合わせたテキストデータの再分析とデータ処理方法の検討に時間がかかり、異なる類義表現対を用いた新たな調査やデータ収集が十分に行えなかった。日本人大学生の意味特徴分析における対比行動については、メタ言語使用の観点からの分析や検討にとどまっている。この点について、記述データの収集を進めて精査することで、対比による意味特徴分析の特徴や問題点の把握を進めていく。
|
Strategy for Future Research Activity |
新たな類義語対や類義表現対を用いて、日本語分析技術の熟達度の低い日本語母語話者(大学生)を対象に調査を継続して行う。そして、類義表現対の意味特徴を分析したテキストデータを収集し、日本語教育経験や日本語分析経験のない大学生が、類義表現対の意味説明に際して採る対比の手続きとそこでの観点に見られる、特徴や問題点を探る。特に、テキストマイニングの手法により意味特徴説明から抽出できる言語要素を基に、対比行動の明示的言語マーカーを特定し、さらには意味特徴説明の内容と傾向を探る。そして、意味特徴説明の対比行動を客観的に把握し、対比を用いた意味特徴分析のプロセスや、意味特徴に関する説明内容への影響を探る。また、類義表現分析の成否から分析者を二分し、対比を用いた分析手続きとの有用性を探っていく。
|
Causes of Carryover |
2017年度は研究遂行に関して既有設備・備品の利用でまかなえる部分もあり、当初予定していた物品等の購入が抑えられた。謝金は専門的知識の提供や資料作成補助に用いたが、予定より実施に時間がかからず助成金使用額が大きくならなかった。また、2017年度にはその前年度までに行った調査データについて、未分析のデータを加えたうえで再分析と再整理することに集中した。このことも使用額の差が生じた一因である。以上に加え、今後、文献調査や大学生への調査を進めるなかで得られるデータの研究目的に適した形での処理や分析のためには、2018年度以降には備品や消耗品、謝金がより必要となりうると判断した。そうした点が研究遂行とそれに伴う物品・備品の購入や資料収集、謝金支払に支障を来さぬよう、計画的に助成金を使用したことも助成金の余剰に影響した。 2018年度は文献資料の収集や専門的知識の提供を受けるために旅費を用いるほか、日本語母語話者への調査を行うにあたって必要な消耗品や、調査実施後のデータ整理に必要な情報機器やソフトウェアなどの備品や消耗品の準備に物品費を用いる。また、データの処理や作成にあたってアルバイトを雇用するほか、データ分析に際しては専門知識の提供を受けるために謝金を用いる計画である。
|
Research Products
(1 results)