2019 Fiscal Year Research-status Report
JSL児童の語彙の深さと推論能力・学力の関係‐認知科学の観点から‐
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17K02859
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
中石 ゆうこ 県立広島大学, 公私立大学の部局等(広島キャンパス), 准教授 (20535885)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
酒井 弘 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50274030)
佐治 伸郎 鎌倉女子大学, 児童学部, 准教授 (50725976)
今井 むつみ 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 教授 (60255601)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | JSL児童 / 日本語母語児童 / 言語力 / 学力 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度までに、日本語を第二言語とする児童(以下、JSL児童)を対象とした調査については、「深いことばの理解」の諸要素に関する複数の調査材料を作成し、調査協力校のJSL児童、日本語母語児童を対象に調査を実施してきた。2019年度には、調査材料の修正を行い、調査対象を当初の予定であった広島県内のJSL児童から広げ、神奈川県、兵庫県などのJSL児童、日本語母語児童に対しても調査を継続して実施している。
具体的な調査結果の一つとして、広島県の複数の小学校に在籍するJSL児童、日本語母語児童を対象にしたカレンダー読み取り課題調査を挙げる。調査の結果、日本語母語児童では学年が上がると正答率が伸びて行く様子が見られたが、JSL児童は、日常生活に問題がない児童であっても個人差が大きく、3年生の日本語母語児童の平均正答率にJSL児童が平均して達するのは5年生であることが分かった。「~日前」を未来、「~日後」を過去と捉える誤りは、JSL児童にも見られたが、これは当初に予想に反して、一部の日本語母語児童にも見られる誤りであった。時間の表現は、国語科だけではなく、算数科、生活科、理科、社会科などの教科においても出現する語彙であり、これらの語の理解の難しさが学力に関わっている可能性があることを指摘できる。 本研究を通して、JSL児童だけではなく、日本語母語児童の言語力にも伸び悩んでいる部分があること、および、その言語力と根底でつながる思考力、推論能力、学力にどのような影響が見られるのかが、明らかになり始めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度までに日本語を第二言語とする児童(以下、JSL児童)を対象とした調査については、「深いことばの理解」の諸要素に関する複数の調査材料を作成し、調査協力校のJSL児童を対象に調査を実施した。調査材料の修正を行い、調査対象を当初の予定であった広島県内のJSL児童、日本語母語児童から広げ、神奈川県、兵庫県などのJSL児童、日本語母語児童に対しても調査を継続して実施している。 これまでに得られた調査結果のうち、時間の関係性の理解に関する調査については、2019年度春季日本語教育学会で発表を行った。さらに、日本教育心理学会第61回総会の研究委員会企画シンポジウム「ことばが育む思考力」において、本プロジェクトの調査で得られたデータに基づいた発表を行った。このシンポジウムのその他の話題提供者の発表と結び付けることで、JSL児童の言語力に関する問題という捉え方を越えて、通常発達の幼児・児童,自閉症児,聴覚障がい児と対照され、その共通点が見えてきた。本プロジェクトの研究成果である、JSL児童の言語力のデータを示すことで、言語以外の領域での思考力,就学後の学力にどのように影響を与えていくのかを多面的,多角的に考えることができている。 本研究を通して、JSL児童だけではなく、日本語母語児童の言語力にも伸び悩んでいる部分があること、および、その言語力と根底でつながる思考力、学力にどのような影響が見られるのかが、明らかになり始めている。そこで、日本語母語児童の語彙習得に関しては、JSL児童の言語力に対する対照群という扱いを越えて、外部機関(広島県教育委員会など)と連携して、より広い範囲で調査を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの本研究課題の研究成果から、それ自体は基本的な語彙であるにも関わらず、より深い意味を聞くような課題を実施した場合、正しく答えられないことが明らかになった。JSL児童の語彙の理解において、伸び悩んでいる部分があぶり出されてきている。そして、その伸び悩みは、JSL児童だけではなく、一部の日本語母語児童にも共通することも分かった。 本プロジェクトの最終年度となる2020年度は、JSL児童、日本語母語児童を対象とした「深いことばの理解」に関する調査のすべて(動詞語彙、時間の言葉、空間の言葉など)について、追加で得た調査結果についても集計を行う。そして次に、調査間の成績の比較を行うことで、相関がみられる言語要素を明らかにしたい。さらに、言語状況、および家庭環境の背景などのアンケート調査の結果との比較も行いたい。 本研究の結果を通して、言語力と根底でつながる思考力、学力にどのような影響が見られるのかが明らかになる。その結果は、教育現場に速やかに還元するべきであると考えるため、教育関係者を対象にしたワークショップなどを本年度中に開催することを計画している。これについては、コロナウイルスの影響で、オンラインの開催になる可能性も考慮しなければならない。
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Research Products
(6 results)