2018 Fiscal Year Research-status Report
映像作品の字幕翻訳に関する研究 -異文化間理解重視の言語文化教育のために-
Project/Area Number |
17K02867
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
保坂 敏子 日本大学, 大学院総合社会情報研究科, 教授 (00409137)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島田 めぐみ 日本大学, 大学院総合社会情報研究科, 教授 (50302906)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本語教育 / 映像作品利用 / 字幕翻訳 / 翻訳研究 / 同化翻訳 / テキストマイニング / 異文化間理解 / 言語文化教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の映像作品を利用する日本語学習者が字幕翻訳を使っても一人で学べないことは何か、このような学習者に言語教師は何かできるかという問いに対し、翻訳研究を枠組みに字幕翻訳によって変容する要素を明らかにすること、それを基に言語文化教育のための映像作品利用の参照枠を策定することを目的とする。 1年目の2017年度は、①分析対象とする字幕翻訳付き映像作品を検討し、映画・TVドラマ・アニメから1本ずつ選定した(映画『そして父になる』、TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』、アニメ映画『君の名は。』)。②パイロットスタティとして『君の名は。』を取り上げ、起点テクスト(日本語セリフ)のどのような要素が英語字幕で変容しているかを分析した。③②の中から「呼称」の社会文化的要素に関する結果をまとめ、ヴェネツィア2018年日本語教育国際研究大会(Venezia ICJLE 2018)に研究発表を申請し、採択された。④翻訳研究・翻訳ストラテジーに関する調査を行い、分析の枠組について検討した。 2年目の2018年度は、⑤Venezia ICJLE 2018で研究発表を行った。⑥②と④を基に、「同化翻訳」を本研究の分析の枠組みと定め、『君の名は。』と映画『東京物語』を対象に分析を行なった。『東京物語』を分析対象に加えたのは、時代を超えた変容の様相を見るためである。分析結果は、東アジア日本語教育・日本文化研究学会2018年度第22回国際学術大会で口頭発表した。これを論文にまとめて投稿し、査読の結果、採択された。⑦②の分析過程で、テキストマイニングなど客観的な視点から量的に分析する必要性を感じ、専門家である豊田哲也氏(青山学院大学)の協力を得て、『君の名は。』『そして父になる』を分析し、社会言語科学会第43回大会で研究発表を行った。⑧②の分析結果を基に、ベルギー日本語教師会でワークショップを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の予定は、①前年度に分析したアニメ映画『君の名は。』の分析結果の発表、②映画『そして父になる』とTVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の分析、③多角的な比較・分析の検討と実施であった。 ①については予定どおり口頭発表をすることができた。②については、③に関する検討から、当初の予定していた分析対象作品を変更し、『そして父になる』と映画『東京物語』を分析したため、TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の分析は来年度に持ち越しとなった。これは、分析の枠組と定めた『同化翻訳』に照らして、前年度分析した『君の名は。』と時代の異なる作品との比較分析を行うことにしたため、ならびに、「テキストマイニング」を用いて、『君の名は。』を他ジャンルの作品一つと比較分析を行うこととしたためである。 分析する予定の作品が一つ残る結果となったが、本研究に資する分析の枠組が見つかったこと、また、先行研究にない量的な分析を取り入れることができたことについては、当初予定していなかった発展的展開であり、研究成果として大変意義のある結果だと言える。今後の研究の進捗は、研究の視点と手法が定まっているので、予定通り順調に進めて行けるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、まず、TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』と『そして父になる』を「同化翻訳」の観点から分析を行う。次に、この2作品の分析結果と、2018年度行った『君の名は』の分析の結果を総合的に検討し、字幕翻訳における変容のカテゴリー化をはかる。これを、映像作品利用の際の参照枠として整理し、映像作品利用のガイドラインを作成する。
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Causes of Carryover |
ヴェネツィア2018年日本語教育国際研究大会(Venezia ICJLE 2018)に研究協力者の伊藤誓子氏も参加の予定であったが、急遽参加できなくなり、その分の費用が残った。それを、本年度分析対象として追加した『東京物語』の分析資料(日本語セリフと英語字幕の文字化資料)の作成費用に充てたが、まだ残額が残った。残額は、日・英・仏の3カ国語での比較・分析のために『君の名は。』『そして父になる』『東京物語』のフランス語字幕翻訳の文字化資料の作成に充てる予定である。
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Remarks |
・2018年5月25日 ベルギー日本語教師会 第103回 日本語教育セミナー 講師 ワークショップ「映画の字幕翻訳を介した言語文化教育」 ・2019年3月15日 東京外国語大学留学生日本語教育センター 2018年度教材開発プロジェクト 公開講演会「メディア素材を活用した教育―留学生教育における分野間アーティキュレーションの実現を目指して―」 講師 「映像・メディアを活用した日本語教育」
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