2018 Fiscal Year Research-status Report
'Plurilingual child-rearing' by overseas Japanese residents - from an interview survey on Japanese residents in Ireland
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17K02870
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Research Institution | Tokyo International University |
Principal Investigator |
稲垣 みどり 東京国際大学, JLI, 講師 (70769786)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 複言語育児 / 現象学 / 質的研究 / 共通了解 / 本質観取 / アイルランド / 海外在留邦人 / 継承日本語教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の研究課題は、「海外在留邦人の親たちは、どのような教育意識のもとに、これらの子ども達に日本語を含む複数言語を介する育児をしているのか」である。「複言語育児」という分析概念を立て、アイルランドを事例に、日本人の親たちにライフストーリーインタビューを実施することでこの研究課題を明らかにしようとした。インタビューの際のリサーチクエスチョンは以下の二つである。 ①アイルランド在住の日本人の親たちは、どのように「複言語育児」を実践しているのか。 ②その「複言語育児」の実践は、親のどのような教育意識のもとに実践されているのか。またそれらの教育意識はどのように形成されたのか。
本年度は主な研究成果として、本研究課題の成果を博士論文にまとめた。(博士論文題目: 「複言語育児」を実践する親たちの意味世界 -共通了解の成立を目指す日本語教育の提言-:2018年7月早稲田大学)。また、2018年7月~8月にかけてアイルランド、ダブリン市で現地調査および海外から講師を招聘して講演会を主宰した。現地調査では、1)それまで継続してライフストーリーインタビューを続けていた研究対象者へのフォローアップインタビュー、2)「複言語育児」の参与観察である。8月5~6日には、、米プリンストン大学からアイルランド日本語教師会に佐藤慎司氏を招聘し、現地の親や教師を対象に言語教育の講演会を実施した。また本年度は本研究課題の研究成果について、計4回学会発表を行った。(うち1回は海外における国際学会)。また本研究課題を明らかにする過程で、理論研究も大いに歩みを進めた。質的研究の基盤理論である現象学の研究会への継続的な参加と文献購読により、日本語教育における質的研究へ新たな視座を博士論文によって開拓した。今後は現象学、哲学の原理を基盤に、さらなる日本語教育学の基礎づけを進め、日本語教育学の理論研究に貢献していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アイルランドにおける現地調査の内容をまとめた博士論文の執筆を終え、本研究課題のひとまずの成果をまとめることができた。今年度は、前半の7月までは研究課題をテーマとする博士論文の執筆に追われた。7月に学位を取得した後は、研究課題の成果を計4回の学会発表で発表した。今年度は論文執筆、学会発表などのアウトプットの比重が高かったため、現地での調査やワークショップは昨年よりも少なくなった。しかし、博士論文執筆の過程でインタビューの分析と理論形成をすすめるうち、理論研究の面で大きな進展があった。それが、質的研究の基盤をなす「現象学の原理」の認識論の原理にもとづき、海外在留邦人の親たちの「複言語育児」をめぐるインタビュー調査から、その本質を考えようとする方向性である。現象学の原理はまた、「信念対立を乗り越える共生社会の構築のための日本語教育の原理」になり得ることに気づき、博士論文ではをれを「共通了解の成立」を目指す日本語教育の提言、とまとめた。社会構成主義、社会構築主義の理論に立脚した日本語教育学の「質的研究」の視座を、「新たな価値の定立」という視覚から新たに問い直し、価値創出の原理を現象学の原理に求めるべく、フッサールの「本質観取」のアプローチによる「共通了解成立」の原理を、日本語教育の領域で新たに打ち出した。先に形成した分析概念、「複言語育児」とならんで、 質的研究の根本原理に立ち戻った地点から出した現象学の原理に基づく理論に、本研究課題を遂行する途上でたどりついたことが、本年度の最も大きな成果である。今年度は昨年度に続いて共生論の研究者が主宰する「共生論研究会」で、教育学、医療、心理学、社会福祉、言語政策など多様な領域の研究者たちに当研究課題について発表し、意見交換を通じて研究を進めた。また言語政策の研究者が主宰する研究会でも当研究課題を言語政策の面から捉える視座を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、あと2回アイルランドに赴き、研究成果を現地の親や教師に還元すべく、講演会やワークショップ、研究会を行うことを計画している。博士論文執筆の過程でフォーカスしきれなかった親たちの「語り」を、再び研究協力者に向き合ってインタビューすることで、縦断的な調査として締めくくれるよう、あと2回はアイルランドに足を運びたいと考えている。 また、理論面でも現象学、近代哲学の研究会における研究を続ける予定である。当研究課題はアイルランドの海外在留邦人の「複言語育児」をテーマにし、「複言語育児」の本質、つまり「複数言語環境で子どもを育てることは、どういうことか」ということを親たちの語りを通して徹底的に考察した。その際、依拠したのが、現象学の原理、つまり物事の「本質」にせまり、その「意味」と「価値」を取り出す「本質観取」の手法である。 国際間移動の活発な昨今、「複言語育児」を実践する親たちは、アイルランドに限らず世界中に存在する。特に2019年4月の入管法改正により、日本は大きく外国人受け入れに舵を切った。具体的な法整備の進まぬままに多くの「外国人」を受け入れ、その中には日本に在住して複数言語環境で子育てを行っている親たちも多い。今後は、日本国内における外国につながる親子を対象に「複言語育児」の研究調査で得られた成果を還元するべく、講演会やワークショップ、座談会などを精力的に実践していきたい。また当研究課題の成果を「育児」を切り口に、ひろく一般に発信していくことが、今後の最大の課題である。理論面では、日本語教育の質的研究の視座から切り開いた現象学の原理を、広く共生社会のための開かれた理論に展開するべく、他の実践領域(人権論、教育学、心理学、社会福祉、哲学)の研究者や実践者と協働し、研究を進めるつもりである。
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Causes of Carryover |
勤務の関係で、予定していた回数でアイルランドでの現地調査を行うことができなかった。日程を早めに調整し、今年度は予定どおりアイルランドでの調査および成果還元をするつもりである。
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Research Products
(5 results)