2017 Fiscal Year Research-status Report
Research on learner autonomy of learners of Japanese as a second language through exploration of learners' voices and identities
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17K02874
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
中井 好男 同志社大学, 日本語・日本文化教育センター, 助教 (60709559)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 学習者オートノミー / 社会的アイデンティティ / ことば / 社会的文脈 / 複雑系理論 / 方言 / 自律学習 / 多言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本で学ぶ日本語学習者が日本社会にあるコミュニティへの参加の過程で獲得した社会的アイデンティティとそれを可能にすることばを明らかにするとともに、その獲得を支える学習者オートノミーの発揮プロセスを社会的文脈やことばの獲得と関連付けて構築することである。 初年度にあたる平成29年度の予定は、日本語学習者の日常生活における社会的交渉について彼らを取り巻く歴史的・社会的文脈から包括的に分析するため、日本社会のコミュニティにおいて獲得した社会的アイデンティティとことばに着目したライフストーリーを作成することである。具体的な手順は以下の通りである。①6名の日本語学習者に調査を依頼し、それぞれ3回ずつインタビューをする、②インタビューデータを文字化し、その文字化をもとに日本語学習や日本語に関する実践にまつわるライフストーリーを作成する。 本年度に得られた成果としては、次の2点が挙げられる。まず、6名へのインタビュー(うち1名は調査の途中)をもとに作成したライフストーリーを通して、日本語学習が学習者を取り巻く社会的文脈における様々な要因によって促進されるという実態を記述するとともに、その実態を複雑系理論の中で解釈することで学習者オートノミーの新たな側面に関する知見が得られたことが挙げられる。次に、調査や分析の過程で、日本在住の外国人の方言使用の実態とアイデンティティとの関係、SNSを用いた日本語によるコミュニケーション上の問題、JFL環境におけるSNSのセルフアクセスラーニングスペースとしての可能性など、日本社会の多言語性やコミュニケーション手段の一つであるSNSがもたらす日本語使用場面における問題に加え自律学習への応用に関する示唆を得ることもできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の目的は、日本語学習者へのインタビューをもとに、日本社会のコミュニティへの参加を通して獲得した社会的アイデンティティとそれを可能にすることばに着目したライフストーリーを作成することである。成果としては、5名のインタビュー調査とライフストーリーの作成を終えている。その中で目標言語社会に身を置く外国人にとっての学習の意味や位置づけと獲得したことばがどのような社会的アイデンティティの構築を可能にし、それによって社会参加を果たしてきたのかという過程を記述することができた。この過程は社会に潜む様々な要因が複雑に影響し合っていること、それによって生じることばの獲得が非線形的であることが示されており、ことばと社会的アイデンティティの構築を複雑系理論によって説明することができた。また、日本の方言が第二言語話者としてのアイデンティティの一部になっており、意図的な使い分けによって戦略的な社会的アイデンティティを構築するケースなど、主体性や日本社会の多言語性が示されている。さらには、SNSにおける言語使用の実態とそこで生じている問題やJFL環境における自律的な日本語学習のためのプラットフォームとしての可能性についても示唆が得られており、日本で暮らす外国人の日本語学習経験の記述は日本語学習や教育を考える上で非常多くの示唆に富んでいることが明らかになった。 このライフストーリーの作成は6名分を予定していたが、1名分は現在インタビュー調査を継続している段階である。これは5名のライフストーリーから派生的に様々な現象の説明や考察の必要性が出てきたことが原因であるが、日本社会の多言語性や日本語学習の今後のあり方についての新たな知見が得られたことは研究全体の考察を深める上でも非常に有意義であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の計画は、①平成29年度のインタビューデータをM-GTAを用いて分析し、学習オートノミー発揮のプロセスの要因となる概念を抽出する、②①によって得られた概念をもとに理論的飽和や理論の精緻化に必要となるデータ収集に向け、新たな属性の調査協力者(6名を予定)を募り、インタビュー調査(1名につき3回)を行いライフストーリーを作成する。 平成30年度は①と②にあるように、在日外国人の経験を記したライフストーリーの作成を継続するとともに、彼らの状況を包括的に捉えた学習者オートノミーの発揮プロセスの構築を見据えた分析を行う。また②については、平成29年度の調査において、方言や手話という日本社会の多言語性をも考慮する必要があることが示唆されているため、日本語が第二言語となる聴覚に頼らないコミュニケーションを行う人たちにも焦点を当てて調査を依頼し分析を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
残額が出たのは、ライフストーリーの作成のための調査が途中となっており、予定していた数の文字化がまだ完了していないことに加え、調査の謝金を自費で支出した部分もあるためである。また、インタビューは英語やベトナム語などの使用されることを想定し予算を計上していたが、平成29年度の協力者は全員日本語だけでインタビューが終了したため、文字化費用が抑えられたこともその要因にある。繰り越した金額は平成30年度のインタビューと謝金に使用する予定である。さらに、調査協力者の発表の機会を設け、その謝金に充足する、あるいは、ホームページの作成にかかる費用が当科研申請時の想定金額よりも高額になりそうなため、そちらの充てることも検討している。
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Research Products
(4 results)