2017 Fiscal Year Research-status Report
平均連続認知語数を指標とした音韻的作動記憶容量と英語リスニング力の関係について
Project/Area Number |
17K02970
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
村尾 玲美 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (80454122)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江口 朗子 愛知工科大学, 工学部, 教授(移行) (30758602)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 平均連続認知語数 / 音韻的作動記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、英語学習者が保持する形態統語論的知識と定型表現の知識を反映する音韻的作動記憶の測定方法として、「平均連続認知語数」(MLPC: Mean Length of Perceptual Chunks)という新たな指標を提案し、英語リスニング能力との関係を分析することで、指標の妥当性について検証することである。申請当初の予定では、平成29年度には100名の実験参加者に対し4種類(筆記ディクテーションテスト・文産出テスト・リスニングスパンテスト・TOEICリスニングテスト)ないしは5種類(口頭ディクテーションテスト)のテストを実施することになっていたが、テストの作成に時間がかかったことから、平成30年度に行う予定だった教育実践を先に行い、1学期間の指導前後で平均連続認知語数がいかに変化するかを分析した。手順として、第一に平均連続認知語数を測定するための筆記ディクテーションテストを作成した。テスト項目に使用した英文は従位接続詞か関係詞を含む統語的に複雑な文であり、かつ『実践ロイヤル英文法』に「慣用表現」として掲載されている定型表現を含む文である。プロのナレーターに読み上げてもらった音声を録音し、文と文の間に書き取り時間として40秒のポーズを入れた。授業参加者43名に対して教育実践前に事前テストとして行った筆記ディクテーションテストでは、線形順序を考慮しない個々の単語の認知率は42.5%であったのに対し、事後テストでは52.5%となり、統計的に有意に向上した。平均連続認知語数は事前テストでは3.7語であったのに対し、事後テストでは4.7語であり、統計的に有意に向上した。1学期間の教育実践で平均的に増えた語数は1語のみであったが、参加者43名のうち42名に平均連続認知語数の増加が確認された。本研究により学習者が短期記憶に保持できる連続語数が非常に少ないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
プロジェクト1年目にあたる平成29年度は、まず5種類のテストを作成することから始まった。TOEICリスニングテストについては、ETSが出版している公式問題集を利用させてもらうための契約書を国際ビジネスコミュニケーション協会との間で交わした。ディクテーションテストおよび産出テスト作成のために、旺文社が出版している『実践ロイヤル英文法』の例文を使用することについても許可を得た。しかしながら、ディクテーションテストと産出テストを作成するのに時間がかかり、リスニングスパンテストの作成は平成29年度中に終わらせることが出来なかった。データ収集は10月から開始したが、リスニングスパンテストが未作成であったため、実験参加者に4種類ないしは5種類のテストを課す計画は次年次以降に行うよう計画を変更した。平成29年度は授業実践前後で平均連続認知語数がいかに変化するかを分析した。筆記ディクテーションテストは授業時間を使い、学期開始時と終了時に行うことが出来たが、産出テストとTOEICリスニングテストについては個別に希望者を募ることとなった。しかしながら、期末試験や長期休暇の関係で、43名の授業参加者のうち追加のテストに参加する者が一人もいなかったことは、当初の計画と大きくずれてしまった。このことから、1学期間の授業中にしか顔を会わせない学部学生を5種類のテストに参加させることは困難であることが今後も予想された。そこで、今後は対象を学部生ではなく、大学院生にすることにより、より長期的にデータを収集できるよう計画を変更する。計画当初の予定では実験参加者は日本人英語学習者であったが、対象を大学院生にすると日本人は少なく、留学生が多く参加することになる。しかし本研究の課題である音韻的作動記憶容量とリスニング力の関係を明らかにするのに、実験参加者の第一言語は大きな要因ではないため、特に問題はないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
プロジェクト2年目の平成30年度は、現時点ですでに60名の学部学生から筆記ディクテーションとTOEICリスニングテストのデータを収集した。今後、個別に希望する学生に対し、産出テストとリスニングスパンテストを実施する予定であるが、昨年度の経験から、あまり多くは収集できないと考える。同一被験者から5種類のデータを収集することが困難であることから、まずは現時点で足りていない産出テストとリスニングスパンテストをディクテーションテストと共に実施してくれる大学院生を今後募集する予定である。学部生と大学院生を対象としたデータ収集を前期・後期ともに継続し、目標とする100名になるべく近づけるよう努力する。最終年度である平成31年度には集めたデータを分析し、国際誌への論文投稿と国際学会での発表を行う。なお、平成29年度に収集した教育実践前後の平均連続発話語数の変化に関するデータは、平成30年8月に開催される全国英語教育学会第44回京都研究大会にて発表する予定である。
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Causes of Carryover |
計画当初は、プロジェクト1年目に個別データ収集を行う予定であったが、5種類のテストを作成するのに時間がかかり、データ収集の開始が10月以降となった。43名の実験参加者から授業時間内にデータを収集し、授業実践の成果を分析したため、個別データ収集は実行せず、人件費はかからなかった。本年度のデータ収集は授業の一環であったことから、テストの採点には授業TA費を使うことができたため、こちらにも科研費からの人件費を使わずに済んだ。43名のうち、希望者に対して個別のデータ収集を行うためと、その分析のために人件費を使う予定であったが、データ収集時期が学期末にあたってしまったことと、対象者が1学期間の授業時間内にしか顔を会わせない学部学生であったことから、当初計画していたような個別データが集まらず、平成29年度は人件費を使わない結果となった。平成30年度には大学院生からデータを収集する予定であるため、昨年度の繰越金を実験参加者への謝礼とデータ分析のための実験協力者謝礼として使用する予定である。
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