2019 Fiscal Year Research-status Report
平均連続認知語数を指標とした音韻的作動記憶容量と英語リスニング力の関係について
Project/Area Number |
17K02970
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
村尾 玲美 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (80454122)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江口 朗子 愛知工科大学, 工学部, 教授(移行) (30758602)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 音韻的作動記憶容量 / リスニング能力 / 長期記憶 / 平均連続認知語数 / 統語知識 / 定型的表現知識 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度前期は研究を中断しており、後期より再開したため、研究実績の概要はこの半年間の成果である。本研究の第一の目的は、学習者の持つ形態統語論的知識と定型的表現知識を反映する音韻的作動記憶容量の測定方法として、「平均連続認知語数」(MLPC: Mean Length of Perceptual Chunks)という新たな指標を提案し、英語リスニング能力との関係を分析することである。平均連続認知語数とは、「線形順序どおりに連続して聞き取り、短期的に記憶しておける語数」を指す。Randall (2007)も述べている通り、ワーキングメモリ内に保持しておけるチャンクの大きさが大きいほど、文の意味理解に資源を充てることができると考えられる。また、このチャンクの大きさは、学習者が長期記憶に保持している形態統語論的知識と定型的表現知識の影響を受けると考えられる。この変数間の関係性を構造方程式モデリングによってモデル化することにより、リスニング能力を上げるために学習者がどのような力を伸ばすべきかが理解できる。
作動記憶容量を測定する方法として最もよく用いられているのがDaneman & Carpenter (1980)のReading/Listening Span Taskである。本研究ではまずこの既存の測定方法とMLPCがどの程度リスニング力を説明するのかを分析するため、55名の大学生被験者に対し、リスニングスパンタスク、MLPCを計算するための筆記/口頭ディクテーションタスク、リスニング能力テストを実施した。また、長期記憶に保持されている形態統語論的知識と定型的表現知識を測定するために、文産出タスクを課した。以上5種類のデータを現在処理中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度前期は育児休業に伴い研究を中断しており、後期より再開した。育児休業期間中も共同研究者がデータ収集を行っていたが、心理学実験プログラムAffect4.0を使用したリスニングスパンタスクがOS環境によって異なる動作をしていることが判明した。また、Daneman & Carpenter (1980)のスパンタスクに従い文の最後の単語を記憶再生させていたが、文末の単語は頻度や文字数や綴りをコントロールしにくい上に、文の意味理解の影響を受けてしまうことが分かった。従って、PsychoPy3を使ってプログラムを作り直し、Engle, et al. (1999)に倣って文とは無関係の統制された単語を音声提示するリスニングスパンタスクを新たに作成した。
研究倫理審査委員会からの承認を経て、11月から2月にかけて55名の被験者に対して一人あたり3種類または4種類のタスクを実施した。55名全員が実施したのはTOEFL形式のリスニング能力試験と筆記ディクテーションタスクとリスニングスパンタスクである。このうち12名は口頭ディクテーションタスクを行っており、38名は文産出タスクを行っている。現在、短期雇用パートタイム職員を雇用し、リスニング能力試験の採点および筆記ディクテーションタスクの書き起こし作業を実施中である。文産出タスクについては現在採点基準を作成中である。採点は、統語知識・文法知識・定型的表現知識の三つの側面から行う。誰が採点しても同じ点数になるように、明確な基準を設けた後、研究代表者と研究分担者で評価者間一致度を出したのち、短期雇用パートタイム職員が採点を実施できるようにする。
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Strategy for Future Research Activity |
収集したデータを処理し、分析可能な数値にするにはかなりの作業量が必要であるため、今後短期雇用パートタイム職員を2名に増やす予定である。筆記ディクテーションタスクの書き起こしが終了したら、連続認知語数(sequential perceptual chunks)の計算及び個別単語認知数(non-sequential perceptual words)の計算を行う。口頭ディクテーションについても同様の作業を行い、同一被験者の筆記・口頭ディクテーションの数値を比較し、モードによる情報の保持量および再生量に違いがあるか、また、リスニング能力によってモードの影響が異なるかを分析する。紙で収集した文産出タスクについてもデータ化が必要である。データ化後、統語的知識・文法的知識・定型的表現知識それぞれを点数化する。リスニングスパンタスクについては、Waters & Caplan (1996)に従い、再生語数と文処理速度と正誤判断正解率を標準化した合成得点を算出する。
五種類すべてのタスクのデータ処理および数値化が終わったら、「連続認知語数」「個別単語認知数」「リスニングスパン」がそれぞれどの程度英語リスニング能力を説明するかを分析する。具体的には、リスニング能力試験の得点を従属変数とし、先に述べた三要因を固定効果、被験者と実験項目を変動効果とした線形混合モデルを構築する。次に、長期記憶における言語知識がワーキングメモリ容量を増幅させ、リスニング能力に貢献することを仮定したモデルを検証するため、構造方程式モデリングによる分析を行う。具体的には、統語知識と文法知識と定型的表現知識を長期記憶おける観測変数とする。ワーキングメモリの観測変数は、先に行う線形混合モデルの結果を見て決定する
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Causes of Carryover |
育児休業取得により、データ収集が2019年度後期にずれ込んでしまったことに伴い、データ処理に必要な短期雇用パートタイム職員の雇用時期が遅くなったため、次年度使用額が生じた。また、同じ理由により、海外および国内での学会発表を断念することとなり、旅費として計上していた経費が未使用となった。
収集した5種類のタスクのデータ処理にかなりの手間と時間がかかるため、今年度より短期雇用パートタイム職員を2名ないしは3名に増やし、データ処理を急ぐ予定である。その他にはエディテージのトップジャーナル英文校正費として30万円を使用する。また、国内の学会開催動向を見ながら、年度内に開催される学会に参加し、研究成果を発表するための旅費にあてる。
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