2018 Fiscal Year Research-status Report
「英語コミュニケーション」の自己認識と言語活動の関わりを探る有機的研究
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17K02972
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
柴田 美紀 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (90310961)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 英語コミュニケーション / アイデンティティ / 言語観 |
Outline of Annual Research Achievements |
「英語コミュニケーション」のイメージを探るため、「英語でコミュニケーションが上手く行く」の解釈を計218名の大学生に記述してもらった。質的・量的統計分析は2019年度に行うため、今回の報告は暫定的であるが、回答からは英語コミュニケーションの場面が海外旅行や日常に起こりうる道案内に限定される傾向が見られた。これは、2012年6月の「グローバル人材育成戦略」に掲げられたグローバル人材の能力水準の初歩レベル(①海外旅行会話レベル②日常生活会話レベル)に相当する。 アイデンティティと言語態度についてアンケート調査を行った。項目は、昨年度(平成29年度)に実施したアンケートを見直し修正した。アイデンティティと言語観に関わる35項目を因子分析したところ、前者には4因子(社会的コンタクト・国家アイデンティティ・他者との関わり・言語アイデンティティ)、後者には2因子(言語観、ネイティブ信仰)が認められた。これらの相関関係を調べた結果、以下の3つが示唆された。(1) 社会的コンタクトが他者との関わりと負の相関あり。自国の仲間と連帯意識が強いと、他者との関わりに希薄である、(2) 国家アイデンティティと言語観に相関がある、(3) 他者との関わりが言語アイデンティティと負の相関、言語観と正の相関あり。他者と関わるために自国の言語に固執しない。他者と関わるために言語、特に英語が必要であるという認識を持つ。 14名に行ったフォローアップインタビューからは、グループディスカッションにおいて(1)留学生の英語力と積極的な発言に圧倒される(2)日本人同士の場合、寡黙になる(ただし、メンバーが男女によってその度合いは異なる)といった傾向が見られた。また、言語とアイデンティティの結びつきを示すことばや表現の使用が少ないことは、日本人大学生は母語(日本語)と外国語(英語)ともに伝達ツールと捉えていると示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は前年度(平成29年度)に問題点となったアンケート回答数が大幅に改善され、アンケートも日本人と留学生から十分な人数が集まり、順調に進んだ。データ整理やインタビューの文字お越しもほぼ終了している。しかし、研究目的に記載した仮説検証の4つのアプローチのうち、「教室内外での言語使用(コミュニケーション活動)を音声・映像録音し、その後、フォローアップ・インタビューを行う」が実施できなかった。そのうち、教室内での言語使用、具体的にはディスカッション時のインタラクションの観察・録音については、昨年同様、研究代表者が提供する講義で履修取り消しや欠席などの理由で定期的かつ同一人物から継続してデータが収集できなかった。また、教室外で英語を使用する学生が予想に反して少なかったことから、該当する学生が集まらなかった。こうした想定外の理由により研究計画から遅れ気味となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度(2018年)より研究代表者の所属機関においてEnglish-medium program (EMP: 英語で完結するプログラム)が開始され、かつターム制導入により、英語で実施される授業数が増えたことから、授業観察も含め英語インタラクションのデータ収集の機会が増えた。しかし、プログラム初年度ということもあり本研究への参加依頼が困難な状況であった。そこで、プログラム2年目の2019年度はこのプログラムの学生への参加を呼びかけ教室内外でのインタラクションのデータ収集を集中的に行う。英語母語話者、非英語母語話者、日本人英語話者に英語インタラクションのタスクを依頼し、データ収集とフォローアップインタビューを実施する。平成30年度は教室外で英語を使用する学生が少ない点が問題となったが、EMPでは留学生も正規学生として在籍しており、日本人学生と彼らは教室内外でインタラクションしていることから、この問題は解決される。ただし、英語母語話者はごく限られた人数であるため、このプログラム以外でも依頼をする。 ジェスチャーや視線が言語同様に発話のタイミングを対話者に示唆していたり、発言権を譲渡する意志を表していたりするので、コミュニケーションスタイルやストラテジーを総合的に調査するためにはジェスチャーや視線も分析対象とすることが望ましい。そこで、平成30年度は実際に録画を試みたが、特に3名になるとジャスチャーや視線が十分に認識できる録画が出来なかった。そこで、2019年度はさらに工夫をする。 2019年6月に香港で開催されるThe 16th International Pragmatics Conferenceで本研究の一部を発表予定である。聴衆からのコメントや質疑応答でのやり取りを参考に今後の研究手法や分析方法に活かしたい。
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Causes of Carryover |
英語インタラクションのデータ収集が計画していたより進まなかったことから録音・録画データの文字化にかかる人件費が少額であったため、次年度への繰り越しとなった。2019年度は授業内外でのインタラクションのデータが増えるため、研究補助員の人件費として使用する。
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Research Products
(3 results)