2020 Fiscal Year Research-status Report
ソヴィエト体制を変容させた二つのアルメニア・ナショナリズム
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17K03044
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉村 貴之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (40401434)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アルメニア / 旧ソ連 / 中東 / ナショナリズム / 共産主義 / ディアスポラ / 地域紛争 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年9月末に発生したナゴルノ・カラバフ紛争の再燃を受け、改めて1992年から1994年5月まで続いた第一次カラバフ紛争がアルメニア政治に与えた影響の比較を行った。今回の戦後処理を巡り、アルメニア側が支配領域の大半を手放した責任でパシニアン首相の政治責任が問われて旧政権与党の反政府運動が強まるのは、敗戦国ではよく見られるが、アルメニア側が有利だった第一次カラバフ紛争時にも、テル=ペトロスィアン大統領と本国帰還を果たした野党ダシュナク党との確執が見られた。1992年5月以降大統領がとったカラバフ戦局の不拡大方針をダシュナク党が批判したのに対し、大統領は同年夏に同党の議長を国外退去させ、さらに、紛争停戦後の94年12月28日からは、ダシュナク党そのものも禁止したことで、95年5月の議会選挙で与党「アルメニア全国民運動」が大勝し、大統領の強権化が進んだ。 また、第一次カラバフ紛争時は半大統領制であるのに対し、第二次カラバフ紛争時は議院内閣制に移行後だったので、大統領は儀礼的な存在であるはずが、戦後処理をめぐってA.サルキスィアン大統領がパシニアン内閣の総辞職と議会の繰り上げ選挙を求めるなど、その発言力が強まった点は、本人が2018年3月にS.サルキスィアン前大統領の推薦により、議会で選出された前政権の残滓であるだけでなく、パシニアン首相が2018年4月の大衆デモによって権力を奪取したことで、政府内での権力闘争が長期化し、半大統領制からの移行が不完全であることを象徴している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウィルスの世界的な蔓延により、昨年度は、研究対象地域での史料収集が全く行えなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
日本からも史料や識者の意見を収集しやすいのは、ペレストロイカ以降の領土紛争になるため、研究対象の時期を、当初申請していた1960~70年代から近年にまで広げて、ソヴィエト期の政治過程が、現在のアルメニア共和国の政治にどのような影響を与えているかも検討材料に含める。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの世界的蔓延で、当初予定していた海外調査が行えなかったうえ、予定していた国外での学会発表が次年度に延期となり、予定していた経費が執行できなかったため。
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