2017 Fiscal Year Research-status Report
ローマ・ビザンツ帝国期における中部地中海島嶼部の文化的変容
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17K03050
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
小林 功 立命館大学, 文学部, 教授 (40313580)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑山 由文 京都女子大学, 文学部, 教授 (60343266)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地中海 / ローマ帝国 / ビザンツ帝国 / シチリア島 / サルディニア島 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度が、本プロジェクトの初年度である。本年度はプロジェクトの開始決定を受けて、まず5月に立命館大学において最初の会合をおこない、本プロジェクトの方向性及び平成29年度の研究活動についての確認をおこなった。続けて6月にも立命館大学で会合をおこなって、研究における視角の確認、及び夏期の現地調査に向けての事務的な調整をおこなった。 夏期休暇中の8月には、代表者・分担者合同で、シチリア島及びローマ市における現地調査・資料収集を実施した。本年度は特にシチリア島内陸部のローマ植民市や古代末期のヴィラ(郊外の邸宅)、ビザンツ期の沿岸部の城塞などの調査を実施し、博物館などでローマからビザンツ期の発掘物を実見する機会も得た。本調査によって、シチリア島におけるローマからビザンツ期の土地経営や都市の立地、存在形態及び村落部との関係性などについて、大きな示唆を得ることができた。 11月には立命館大学で第3回の研究会をおこなった。またそれぞれの勤務校の春休み期間を利用して第4回の研究会を京都女子大学において実施し、特に古代末期の地中海世界の状況と皇帝権力を念頭に置いて、研究報告や議論、意見交換をおこなった。また今後の研究方針の再確認や研究調査の方法を検討するなど、次年度の研究方針やすすめ方についても意見交換をおこなった。 代表者・分担者の今年度の研究成果は別表の通りであるが、代表者が平成30年3月に開催された日本ビザンツ学会大会での報告を実施した。これは本来、平成30年度に報告予定であったが、進捗状況や今後の研究の方向性を鑑み、一部前倒しで実施したものである(平成30年度にも再度報告をおこなうことを検討中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表者・分担者ともに順調に各自の研究課題についての分析や調査を進めている上に、上述したように、平成29年度は代表者・分担者合同での調査もおこなっている。ローマ帝政期からビザンツ帝国期のシチリアにおいては、大土地所有が優越していたが、平成29年度の調査ではローマ期のさまざまな種類の植民市に加え、古代末期からビザンツ初期の大所領経営の拠点ともなっていたヴィラについても調査が実行できた。ヴィラは、それ自体も重要であるが、本研究課題においては立地条件も大きな留意点となる。ヴィラや周辺都市、特に古代ギリシア時代からの伝統を持つ、シュラクサやタオルミナなどの東部沿岸部の諸都市との関係性に注意を向ける必要性を意識できるようになったのは大きな成果であろう。 また、タオルミナや、その背後の山頂部に形成された城塞都市カステルモーラは、ビザンツ支配後期の、対イスラーム(北アフリカを拠点とするアグラブ朝)との戦いの最後の拠点であったところである。シュラクサも含め、シチリア島で最後まで存続したビザンツ支配領域であるとともに、ギリシア語圏・ギリシア文化圏の最後の領域であったこの地域の分析の重要性は、論を俟たない。 このような調査の結果も踏まえ、代表者・分担者ともに各時代の分析を進めている。代表者は特に7世紀のシチリア島の状況についての分析を進め、北アフリカ(チュニジアなど)やエジプトなどとともに、対イスラームの最前線にあった地域の政治や文化について分析を進めた。分担者はローマ帝政期におけるギリシア・ルネサンスの潮流の中で、本来ギリシア文化圏であったシチリア島の諸都市がどのような位置にあったのかについて、ビザンツ期との連続性をも視野に入れつつ、考察した。 こうした今年度の研究成果は、研究会の機会を通じて議論をおこない、相互理解が進むとともに、新たな示唆を代表者・分担者それぞれが得ることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度も基本的には前年度と同様の研究を実施する。具体的には、4回の研究会を実施し、研究状況の確認や認識の共有を進めていく。また年度後半には最終年度のまとめに向けて、議論の方向性の統括などの協議も開始する。また今年度は昨年度のシチリア島に続き、サルディニア島において現地調査を実施する。サルディニア島はギリシア文化の伝播や受容のプロセスなどがシチリアとは異なり、本研究課題にとってきわめて貴重な視座を提供してくれる地域である。一方でローマ市との物理的な距離など、ローマ国家との関係性を考える上でも重要な論点を与えてくれる。 またあわせて、代表者・分担者ともに各自で分析を進めることが必要となる。代表者はビザンツ期のシチリア島が持つ中心性(7世紀に一時宮廷が所在/バルカン半島へのスラヴ人の南下に伴うギリシアからの住民の移住/7世紀末以降、ビザンツ帝国の西方支配の拠点に)とマージナルな性格(首都コンスタンティノープルからの距離/対イスラームの最前線)という両面性、そしてサルディニア島のマージナルな性格の強さを分析の際の主な視角としていく。一方で分担者は、シチリアよりもサルディニアに重心を置き、ローマ帝政期にこの島が置かれた独特の状況について、長期的視点から検討する。 なお、平成30年度は代表者が所属校より1年間の学外研究の機会を得て、分担者が所属する京都女子大学において研究に従事している。そのため本年度は研究会は主として京都女子大学で実施する。また平成29年度は研究会のスケジュール設定に若干の問題が生じたが、本年度は代表者・分担者ともに京都女子大学で主として研究をおこなうため、研究会のスケジュールだけでなく、日常的に議論・認識共有をおこなうことも容易になると思われる。
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Remarks |
代表者のウェブページ。「業績一覧」のページで代表者の過去の研究成果について記述(一部論文は本文も閲覧可能)。
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