2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K03052
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
中西 直樹 龍谷大学, 文学部, 教授 (20412687)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本史 / 仏教学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度、本研究課題に関連する研究実績として、単編著『明治前期の大谷派教団』(法藏館)、論文「本願寺派の台湾布教概史」(『龍谷大学アジア仏教文化研究センター2018年度研究報告書』)、コラム「海外布教史資料集刊行の意義」(柴田幹夫編『台湾の日本仏教』勉誠出版)、資料集『戦時下「日本仏教」の国際交流 第Ⅴ期チベット仏教との連携』(不二出版)を発表した。 「本願寺派の台湾布教概史」は台湾で最も積極的に布教活動を展開した本願寺派の動向を検討したものであり、「海外布教史資料集刊行の意義」はこれまでの筆者が手がけた海外布教関係資料集の内容とその意義について論じた。また『明治前期の大谷派教団』はいち早くアジア布教に着手した大谷派の内部事情の一端を明らかにし、『戦時下「日本仏教」の国際交流 第Ⅴ期チベット仏教との連携』は満州国の保全を意識した真言宗・日蓮宗・浄土宗・大谷派によるチベット仏教工作事業に関する資料集である。これらは、日本仏教のアジア布教の実態を知る上で基本的な文献・資料になると考えられ、今後の日本仏教のアジア布教に関する研究にも貢献し得るものと考えている。 このほか、日本仏教各宗派の国内における動向を対象とした著書・論文も数点発表した。単著『新仏教とは何であったかー近代仏教改革のゆくえ』(法藏館)、単編著『明治仏教研究事始め』(不二出版)、共編著『仏教婦人雑誌の創刊(シリーズ近代日本の仏教ジャーナリズム第二巻)』(法藏館)、論文「西依一六と大谷派改革運動」(『龍谷史壇』147号)などである。これら書籍・論文は、日本仏教がアジア布教を推進していくに際して、どうような状況にあったのかを知る上で必要不可欠な研究であると考える。 こうした日本仏教のあり方の理解を深めたことで、アジア布教に関する研究視野も広がり、数編の論文を新たに執筆できた。次年度には更なる研究実績を公表できる見込みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
すでに本研究の主たる目的であった『仏教植民地布教史資料集成』(満州・諸地域編)全8巻(不二出版)は2017年度中に刊行を終えている。本資料集は、朝鮮編全7巻(2013年)、台湾編全6巻(2015~2016年)に続くものであり、日本仏教のアジア布教の全体像を理解する上で基本的文献資料を収録している。今後の研究の発展に大きく資するものとなろう。 本年度は、これら資料を活用しつつ、広範囲に及びかつ長期間にわたる戦前日本仏教のアジア布教をさまざまな側面について論じた論文・著書・資料集を多数発表することができた。その意味では研究の進捗状況はおおむね順調と言える。 さらに、『仏教植民地布教史資料集成』(満州・諸地域編)の解題原稿もすでに脱稿しており、原稿を出版予定の三人社に入校している。同時に、マライ半島・シンガポール・香港・千島・ウラジオストクにおける日本仏教の布教実態に関する論文の執筆を終えており、これらにすでに刊行した『仏教植民地布教史資料集成』の朝鮮編と台湾編の解題、共編者の野世英水氏の論文二編を加えた書籍を、『日本仏教アジア布教の諸相』として2019年度に三人社より刊行できる見込みが立っている。 本書は、すでに刊行した単著『植民地朝鮮と日本仏教』(2013年、三人社)、単著『植民地台湾と日本仏教』(2016年、三人社)と併せて、包括的に日本仏教のアジア布教を俯瞰した研究として、大きな意義を有するものになると考えている。 一方で、日本仏教のアジア布教を包括した概説書の刊行は、当初難航が予想されたとおり、3年間で達成することは難しい状況となっている。前記3書で十分に検討できていない地域や事項があり、これらの地域の布教実態の解明が今後の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
日本仏教各宗派が布教活動を行った主要な地域での実態解明に関しては、おおむね一定の成果をあげることができた。しかし、対象の布教地域が広範囲に及び、かつ布教時期も長期間にわたるなかで布教のあり様も大きく変遷している。 このため、さらに全ての地域の布教実態の変遷を解明する上で、新たな資料の発掘に努める作業は欠かせない。そのための作業として、アジア各地の現地調査、開教使の遺族・出身寺院での調査活動を推進する予定である。また、当時の海外各地での布教動向は、仏教系の各種新聞・雑誌に関係記事が数多く掲載されている。これら新聞・雑誌のデータ蒐集も国内外の研究機関などから蒐集する予定である。 蒐集した新聞雑誌の記事等はカードに整理してデータ・ベース化し、布教実態の把握に努めたい。その際の作業の補助は、雇用したアルバイトにも依頼する。こうして蒐集・整理したデータをもとに、各地域での日本仏教の海外布教の全体像を俯瞰できるような概説書の執筆に向けた準備作業を進めたい。 なお、その際にアジア地域だけでなく、ハワイ・北米・南米・欧州などでの布教実態についても把握する必要がある。すでに、これら地域の実態に関しては、単編著の資料集『仏教海外開教史資料集成』(ハワイ編6巻・北米編6巻・南米編3巻、2007~2009年、不二出版)、及び単著『仏教海外開教史の研究』(2012年、不二出版)で一定の研究成果を発表している。しかし、なお不十分な点も多々あるため、上述のアジア方面の資料蒐集・整理と同様の作業を、ハワイ・北米・南米・欧州に関しても、併せて推進していく予定である。 このように作業は膨大なものとなるため、日本仏教の布教に関する概説書の執筆には相当の困難が伴うと予想されるが、着実に準備作業を進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
アルバイトとして雇用していた大学院生の実家が北海道地震のため罹災し、一時的に帰省したため、予定していたアルバイト費用に残額が生じた。
残額に関しては、2019年度の助成金と併せて、書籍の購入・資料の複写費用等に充当する予定である。
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