2019 Fiscal Year Research-status Report
19 ~20世紀における瀬戸内地域と日本海地域の経済的・文化的交流に関する研究
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17K03072
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Research Institution | Onomichi City University |
Principal Investigator |
森本 幾子 尾道市立大学, 経済情報学部, 准教授 (20425060)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 阿波国 / 北海道産鯡魚肥 / 北前船商人 / 大坂両替商 / 手形流通 / 瀬戸内地域 / 日本海地域 / 奉納 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、当該研究の最終年度にあたるため、これまでの研究成果のまとめを行うとともに、研究課題に沿った他地域(阿波国、北陸地域、大坂)以外の瀬戸内地域と日本海地域の経済的関係を明らかにすることによって、より広範囲な視点を取り入れた考察を試みることができた。これについては、島根県松江市の市史編纂事業に執筆委員として関わった都合上、その事業を通した研究を行い、研究課題の内容をより発展させることができた。さらに、これまでの研究報告の成果の一部は、令和2年(2020)の大学の紀要に掲載される予定である。 また、これまでの2年間における当該研究成果は、数年後に著書として出版する予定であるため、当該研究で明らかにしたことを中心に、研究成果の編集と追加執筆作業を同時にすすめた。 まず、当該研究でおもな分析対象とした商家(阿波国撫養の廻船問屋山西家)が台頭してきた18世紀後期~19世紀の各地域経済の発展や、諸藩の経済政策における商人の献策・建言の積極的取り入れなど、これまでとは異なる経済的環境についての調査をすすめ、当該研究の前提として提示する作業を行った。 さらに、19世紀の瀬戸内地域と日本海地域における経済的関係に関する他地域の事例を、新たな研究成果として組み込んだ。ここで対象地域としてとりあげたのは、瀬戸内地域の主要湊町であった尾道と、日本海地域の松江藩の関係である。具体的には、これまでおもに、大坂に移出販売されていた松江藩の蔵米(年貢米)が、19世紀になると尾道へ向けて移出される割合が高くなる要因を、松江藩の財政や尾道の地域経済との関係性をふまえて考察を行った。 これらの追加作業は、当該研究をまとめるなかで、研究課題の遂行や研究のさらなる発展において必要不可欠なものであると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、当該研究の最終年度であるため、おもに、これまでの研究成果のまとめ作業や、当該研究を補足およびより発展させるための調査研究を実施した。 研究成果のまとめや追加作業については、研究対象地域の図書館(徳島県立図書館、徳島大学附属図書館など)における文献調査や、これまで収集していた史料(広島県立文書館所蔵橋本家文書など)の分析を行うことが可能であったため、研究課題「19~20世紀における瀬戸内地域と日本海地域の経済的・文化的交流に関する研究」のうち、「経済的交流」に関しては、おおむね順調に進展していると評価している。 ただ、「文化的交流」に関しては、これまで2年間のうちに調査した成果(石川県、福井県、徳島県における寺社奉納物調査の成果)は出ているが、研究のさらなる発展のために北海道(19世紀に阿波国商人や北前船商人の北海道産鯡魚肥や塩取引の拠点となったため、それに関する寺社奉納物が残されている可能性が高い)や、福井県(当該研究の分析対象商家(山西家)の取引先商人が多数存在し、阿波国撫養にも支店を設置していたほど阿波国との結びつきが強い地域)への補足の調査を計画していたが、新型コロナウイルスの影響で調査が延期となったため、これについては、研究延長期間に実施が可能であれば、調査を行う予定である。 万一、調査が不可能であれば、研究計画調書にも提示したように、研究対象地域で発行している県史や市町村史によって関連事項を調査し、研究成果として追加する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、数年のうちに、当該研究成果を著書として出版する予定である。現在、出版社と出版計画について相談し、入稿に向けた編集作業を行っている。著書構成は、当該研究で明らかにしたことを中心としており、とくに、当初の研究調書で示した目的が著書のおもな論点となっている。 当該研究の主要課題である幕末期廻船経営と中央市場の金融機能の関係については、数章にわたる構成で、山西家側の史料と大坂両替商側の史料の双方を使用することによって具体的に分析し、幕末期中央市場の金融機能についての新たな論点を提示する予定である。 さらに、主要論点としてあげた阿波国商人と北前船商人の商取引に関する研究については、数章にわたって、北海道産鯡魚肥取引の変遷(幕末期~明治初期)、取引先北前船商人の性格(福井県・石川県中心)、代金決済の方法、価格形成をめぐる山西家と北前船商人間の情報交換など、多様な視点から考察を行い、当該期の地域市場の発展と関連させて提示する予定である。また、そこでは、山西家のような商品流通の結節点に位置する商人が、中央市場の両替商との関係を維持することによって、北前船商人への多額の代金決済が可能となったこと、さらに、それによって多量の肥料入津が実現し、肥料や米穀類を中心とした地域金融網が発達したことなども同時に明らかにする予定である。 そして、当該研究の最後の課題としてあげた商人による寺社への「奉納」に関しては、山西家の商品流通の特徴に対応させ、全国的寺社への奉納、地域の寺社への奉納と、それぞれに分けて章立てを行う。これらの章では、当該研究で明示した経済的な商取引と密接に関わりながら商人による「奉納」が行われ、さらに、それが地域文化の創出に大きく寄与したことを提示する予定である。 結論部分としても、当該研究によって得られた成果を中心に述べ、19世紀の商品流通史研究において、新たな論点を提示する。
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Causes of Carryover |
最終年度には、大学が春季休業期に入る2月~3月にかけての補足調査を予定していたが、昨今の社会情勢(新型コロナウイルスの日本全体における感染拡大状況)のため、実現できなかった。予定していた遠方への調査準備にともなって、必要な物品や書籍が入用となるため、それらの購入申請に関しても延期している状況である。 今後、新型コロナウイルスの感染拡大状況がおさまり、遠方への調査が可能な社会状況になれば、あらためて調査出張申請と、それにともなう物品の購入申請を行う予定である。 万一、状況によって、遠方への調査が不可能な場合には、調査対象地域に関する県史・市町村史の購入を行い、現地調査を文献調査に切り替えることによって、効率的な調査研究をすすめる予定である。
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Remarks |
論説:樫本慶彦・森本幾子「尾道と北前船-交流の歴史をたどる―」(『尾道市立大学地域総合センター叢書№10』2019年7月、61頁~62頁)/講演会:広島東ロータリークラブ主催学術講演会「徳川将軍家と広島藩浅野家」(2019年4月5日、広島市東区不動院)/講演会:(公財)広島市文化財団主催学術講演会「浅野氏入城400年記念事業「浅野家と広島」(2019年5月23日、広島市東区早稲田公民館)
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Research Products
(4 results)