2020 Fiscal Year Research-status Report
地域社会における陰陽道および民間信仰の多元的な派生・展開に関する研究
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17K03080
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
赤澤 春彦 摂南大学, 外国語学部, 准教授 (90710559)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 陰陽道 / 陰陽師 / 宇佐 / 宿曜道 / 宿曜師 / 物気 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により調査活動が予定通りに行えなかった分、成果の公表に力を入れた。編著(責任編集)を1件、論文を4件、学会報告を1件、報告要旨1件を発表することができた。 まず、責任編集を務めた『新陰陽道叢書 第二巻中世』(名著出版、2021年1月)を刊行できたことは最も大きな成果である。本書はこの30年ほどで著しく進んだ陰陽道研究を現時点で総括したシリーズで、全五巻(古代、中世、近世、民俗説話、特論)によって構成される。編集にあたって、他の編者や執筆者と頻繁に意見を交わし、最新の研究状況を共有できた点も成果である。中世巻には「中世陰陽道研究の成果と課題」、「院政期・鎌倉期の宿曜道と宿曜師」、「宇佐の陰陽師」の3篇を執筆した。このうち、「中世陰陽道研究の成果と課題」は、『陰陽道叢書2中世』(名著出版、1993年)以降の中世陰陽道研究の総説であり、日本宗教学会第79回学術大会(2020年9月19日オンライン開催)で発表した成果を加えている。また、「宇佐の陰陽師」は本研究において継続してきた宇佐市・中津市でのフィールドワークの成果の一部である。本研究の重要なテーマである民間信仰および陰陽道的知の派生・展開を考える上で重要な事例であり、従来の「民間陰陽師」という曖昧な概念を再検討し、「地域陰陽師」という概念を新たに提起した。 また、中世社会における病と陰陽師の果たした役割についても論究した(「日本中世における病・物気と陰陽道」小山聡子編『前近代日本の病気治療と呪術』思文閣出版、2020年4月)。物気に対する陰陽師の役割に新たな知見を加えることができた。以上、本来ならば最終年度となる2020年度はこれまでの4年間の調査成果、研究成果を充分に発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終年度にあたる2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けたが、4年間の調査・研究の成果を充分に公開することができた。特にこの30年弱の陰陽道研究の成果をまとめた『新陰陽道叢書』(名著出版、全5巻、2020~21年。)は今後の陰陽道研究を進めてゆく上で大きな役割を果たすことは間違いない。 このように成果の公開という点ではかなり順調に進めることができた。一方、調査活動については、社会状況に鑑みて、ほとんど行うことができなかった。当初の計画では、三重県員弁郡、和歌山県日前国懸宮で調査を行う予定であったが、見送らざるを得なかった。本研究は2020年度をもって終了する予定であったが、こうした理由により、科研費の延長を申請し、今年度に残った予算を2021年度に執行できるよう計画を変更することとした。 民間信仰および陰陽道的知の地域的展開を研究してゆくための事例収集は、この4年間で進んだとはいえ、いまだ充分とはいえない。とりわけ、陰陽道や陰陽師のあり方が大きく変容する中世後期から近世にかかる史料の発掘が求められる。すでに未見の史料が残されている情報も得ているので、2021年度に調査できるよう調整する。
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Strategy for Future Research Activity |
先に説明したように1年延長したため、2021年度を最終年度とする。 研究成果の公表では、まず中世の陰陽道・陰陽師について一般の方にも理解していただけるように発信したい。次に本研究の課題である民間信仰および陰陽道的知の派生・展開の問題を考えるための事例として、大和国を対象とした陰陽師の活動や知識・呪術の伝播についての論考を発表する予定である。中世前期の南都で活躍した安倍氏の一派について、また中世後期の大和国の僧が編んだ占術・暦注の雑書を取り上げ、畿内における陰陽道的知のネットワークについて検討する。また、武家政権における怪異の問題についても考える。 次に調査であるが、現在も新型コロナウイルスの感染拡大に収束が見えない状況であるが、2020年度に調査できなかった三重県員弁郡と和歌山県日前国懸宮の調査を行いたい。また、南会津地域の修験の院家から発見された聖教類の中に『ホキ抄』(中世に成立した暦注書)があるので、こちらも調査に入る予定である。 ただし、新型コロナウイルス感染拡大の状況を見極めながら柔軟に対応し、現地調査に入れない場合は、国立公文書館内閣文庫や京都府立京都学・歴彩館、天理大学図書館などに所蔵されいている関係史料の複写や関連する研究書の購入に充て、上記の論文執筆などに役立てることとする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、研究調査を見送ったため、予算を使うことができなかった。延長申請を行い、認められたので、今年度は調査に行く予定である。ただし、感染の状況を見極めながら、史料館・図書館所蔵の史料複写に切り替えるなど、柔軟に対応する。
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Research Products
(7 results)