2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K03084
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
清武 雄二 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 特任助教 (50753737)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 長鰒 / 熨斗アワビ / 延喜式 / 木簡 / マダカアワビ / 食文化 / 税物運搬 / 食材貢納 |
Outline of Annual Research Achievements |
文献等の資料調査では、先行して調査を進めていたアワビに特化して木簡データを収集・解析するとともに、『延喜式』を対象とした水産品の貢納地域別のデータ収集を行った。加工実験は、当初は天日干しによる乾燥法等、前年度と条件を変えて実施する予定だったが、メガイアワビを使用した前年の実験データと前述の文献等資料調査を比較・検討したところ、古代の熨斗アワビは最大品種のマダカアワビを使用した可能性が高まった。このため、主たる実験目的を使用品種の特定とした。 実験の参考に資するため、急遽5月に、熨斗アワビを製造している三重県鳥羽市国崎町の神宮御料鰒調製所において、使用品種別による差異等についての聞き取り調査を実施した。7月には志摩産の天然マダカアワビによる加工実験を行った。厳密な比較検証のため、乾燥方法は前年のメガイアワビ加工実験と同じ陰干しとし、試料量の問題から天日干しによる成分分析等の調査は次年度以降とした。9月に水戻しによる2次加工実験を実施し、運搬形状を確認する加工を試みている。実験によるアワビ加工品の長さ・質量・幅のデータ分析によって、アワビの最大個体品種であるマダカアワビが長鰒の材料であったことが確認された。また、2次加工時に行った運搬形状の検証実験により、税物生産を前提とした製造工程等を特定することができた。 成分分析については、入手できたマダカアワビの個体数が少ないため、今年度は加工前の生段階と水戻しによる2次加工から再乾燥2週間後の段階の計2回とした。また、聞き取り調査の結果、1年間の長期保管を行う必要が明らかとなったたため、製造から1年を経た次年度に3回目の分析を行うこととした。当該年度の分析結果としては、前年に行ったメガイアワビと類似した分析値を確認している。分析項目には、次年度以降に天日干しによる乾燥との比較を行う可能性を考慮して、新たに脂肪酸分析も行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文献史料・木簡等のデータ収集・整理やアワビを対象とした加工実験はほぼ予定通りであるが、次年度以降に加工実験を予定していた海藻や腸漬鰒・醤鰒に関する予備的な調査に変更と遅れが生じている。 本研究では、加工実験や成分分析等、従来の文献史学とは異なる研究方法をとるため、実験・分析に適した食材・地域を具体的に選定した上でのデータ収集が必須となる。学術的な検証に耐えうるデータを収集するため、初年度となる平成29年度には、水産学や地域社会学といった多分野の研究者に調査・研究上の意見を求めることとした。水産学分野では石川智士氏(総合地球環境学研究所・教授)、社会学分野では赤嶺淳氏(一橋大学大学院社会学研究科・教授)のご協力を得て、意見交換を重ねている。その結果、海藻類は環境変化や近代以降の産業的な資源管理等によって分布や生育状況が古代と大きく異なっている可能性が高いこと、文献史料上の海藻類と現在のものとの種別同定が厳密には困難なこと、といった課題が浮き彫りとなった。 このため、予定していた海藻類の調査に替えて、種別の特定が可能であり、現在も地域社会で生産・消費されている伝統的水産加工品を取り上げることとした。具体的対象としてはサメやナマコを取り上げ、文献史料や木簡データの収集・整理を進めている。 また、アワビの加工実験では、使用品種の特定を目的の一つとしたため、当初予定の腸漬鰒・醤鰒に関する水産加工現場での取材・聞き取り調査をとりやめ、マダカアワビを使用した熨斗アワビ製造に関する聞き取り調査に切り替えている。その結果、腸漬鰒・醤鰒の加工に関する聞き取り調査は、鮫楚割や海鼠腸といったサメやナマコの加工品に関する資料収集と検証ポイントの検討を経た後の次年度以降に延期することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、『延喜式』等の文献史料や木簡を対象としたデータ収集・整理を続け、加工実験データとの比較・分析を行っていく。 文献・木簡を対象とした調査については、貢納食材の網羅的な整理としては『延喜式』の整理のみにしぼり、木簡・正倉院文書等も含めた助数詞・数量詞の収集・分析については、アワビのほかサメやナマコなど、現在確認できる伝統食材の事例に特化することで、精密かつ効率的なデータ収集に努めることとする。 アワビの加工実験・成分分析については、平成29年度の聞き取り調査によって熨斗アワビの保管期間が1年間であることが明らかとなったため、同年度にマダカアワビを使用して製造した熨斗アワビを1年間保管した後、成分分析を改めて行うことにより、長期保管による影響の有無を検証することとした。なお、試料量の不足に備えて、マダカアワビの天日干しによる熨斗アワビ加工実験時に、長期保管時の成分分析も併行して行うこととする。 腸漬鰒については、平成30年度に水産加工現場等の聞き取り調査等を実施し、加工実験は最終年度に繰り下げる。醤鰒については、最終年度の加工実験を視野に入れた類似製品の生産現場といった現地調査の対象等をリサーチし、聞き取り調査等を行う。
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Causes of Carryover |
調査の途上で新たに古代の長鰒の使用品種がマダカアワビである可能性が高まった。材料の品種同定は本研究の重要な成果であり、今後の実験データの有用性を高めるためにも追究すべき事項であると判断した。このため、予定していた腸漬鰒・醤鰒の製造実験の聞き取り調査や熨斗アワビの天日干し実験を次年度以降に延期して、品種別の加工状況を把握するための聞き取り調査および加工実験を実施した。 また、長鰒の成分分析は、夏季の製造時と秋季の貢納時を前提として行う予定であったが、調査の途上で古代の長鰒の保存期間は製造から消費まで最長1年間である可能性が明らかとなった。このため、長期保存に伴う食品としての状態変化を数値的に確認する必要が生じた。しかし、当初予定していたマダカアワビの分量では長期保管時の成分分析を行うには不十分であるため、次年度に延期した天日干し実験に併せて長期保管の検証を行うこととした。 以上、次年度の使用額と使用計画は、腸漬鰒・醤鰒の聞き取り調査および天日干し実験等の次年度への実施繰り越しに伴って生じたものであり、後者については長鰒の長期保管実験を併せ行うものである。
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