2019 Fiscal Year Research-status Report
呪符木簡の時代的地域的特質からみた「木に文字を記す文化」の史的考究
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17K03087
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
山本 崇 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 上席研究員 (00359449)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 出土文字資料 / 符ろく |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究は、呪符木簡を素材とした本格的研究を試み、呪符に込められた祈りや願いなど人々の心性の時代的地域的特質を検討することにより、「木に文字を記す文化」の日本的特質を明らかにしようとするものである。 平成31年度(令和元年度)には、学術雑誌『木簡研究』に未掲載の全国の木簡出土遺跡の報告書をあらためて網羅的に検討する作業を進め、20件の新出事例を確認することができた。これらの「新出」呪符は、写真撮影、熟覧調査の計画をたて、ご所蔵機関との調整にはいるとともに、全国出土木簡を紹介する研究報告において、2019年の出土事例に加えて学界に情報を提供することができた。年度末には、釈文のテキスト入力作業を集中的に実施し、この実績報告を記す5月段階までに釈文入力を終えた呪符木簡は、約1000件に及んだ。これは、集成(稿)に掲載予定のほぼ全点にあたり、引き続き、類型化、比較検討作業、地域比較などに着手している。 研究成果は、a藤原宮跡資料室において、藤原宮跡出土の呪符木簡、薬名木簡、弘仁年間の庄園の倉札を展示する特集展示を企画し、カラーリーフレット、解説シートを作成・配布した。b奈良文化財研究所編『木簡 古代からの便り』に、新聞連載「木簡の古都学」の原稿を補訂して収録、公刊した。c本採択課題の研究成果を含む木簡の集成作業の過程で着想を得た「参河三嶋の贄荷札」についての論考が、機関内の学術雑誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成31年度(令和元年度)は、資料の収集、学界で一般化されていない資料を新たに見いだすなど、もっとも基本的な作業について順調に課題を進めることができた。とりわけ、対象となる約1000点の呪符について、ほぼ全点の釈文テキスト入力を終えたことは特筆でき、『呪符木簡集成(稿)』刊行に向けた準備はほぼ整った。 しかしながら、新たに見いだした資料などについて、秋頃と本務の発掘現場が終了した3月を目処に熟覧調査、写真撮影に赴く計画をたて、ご所蔵機関にも内諾をいただいていたところ、本務の関係で秋に出張を実施できず、3月には新型コロナウィルス感染の拡大により、都道府県を越えた移動を自粛する事態が生じたため、科研にかかわる研究業務遂行に大きな支障をきたすこととなった。 予定していた調査は、ご所蔵機関の受け入れ体制、本務の進行状況、同行する協力者の予定などをふまえ、令和2年9月初旬におこなう予定で再調整をしており、体制をたてなおした上で、採択課題にかかる調査を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年5月段階にほぼ完成した『呪符木簡集成(稿)』をもとに、類型化、比較検討作業、地域比較などの具体的な分析、研究を進める。とくに、平安時代院政期から鎌倉時代にかけての符ろくをもつ呪符木簡を選び、写真・実測図を用いて比較、分類をおこなう。実測図が未公表のもの、画像が不鮮明なものなどについては、高精細デジタルカメラによる赤外線撮影をおこない、良質の資料を蓄積するとともに、研究の基礎資料とする。現在、熟覧調査、撮影を要する資料について、資料は調査可能な状況にあるか、ご所蔵機関の対応は可能か、効率的な旅程を組むことができるかなど、内外の情勢を判断しながら調査計画を策定する予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度は、本務の都合から秋と年度末に出張調査を計画していたが、所内の業務分担の変更により秋に業務が集中し出張調査をおこなえなかったこと、年度末には新型コロナウィルス感染の拡大により予定していた出張を自粛したことにより、各地の出土資料を実見することができなかった。 現在、情勢に鑑みながらご所蔵機関との日程調整を進めており、9月初旬をめどに熟覧・撮影などの調査を再開できる見込みである。
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