2018 Fiscal Year Research-status Report
戦時期日本の「大東亜共栄圏」政策に関する政治経済史的研究
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17K03090
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
安達 宏昭 東北大学, 文学研究科, 教授 (40361050)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日本史 / 近現代史 / アジア太平洋戦争 / 地域統合 / アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アジア太平洋戦争中、日本が「大東亜共栄圏」という「広域圏」形成のためにとった地域統合政策の形成展開過程を、政治的側面と経済的側面を統一して把握しようとするものである。本年度の研究業績は、以下の2点である。 第1に、「大東亜共栄圏」構想における主要な物資・製品の長期的な生産目標が立案された過程を解明するとともに、その目標の特徴や問題点の分析を進めた。具体的には、開戦後の「大東亜国土計画」や「第2次生産力拡充計画」など複数の部署で進められていた大東亜地域の長期的産業生産計画(生産目標)と、大東亜建設審議会で決定した15年後の主要物資の生産目標との関係を解明し、複雑な作成過程を明確にした。とりわけ、計画立案省庁であった企画院と商工省の生産目標をめぐる協調と対立に留意し、それが産業建設の方針に影響したことを明らかにした。 第2に、「大東亜共栄圏」政策が、アジアにおける地域の経済社会にどのような影響を与えたのかについて、事例研究の対象としている中国華北地方の現地史料に対して本格的な調査・分析をしたことである。中国華北地方の代表的な地域である北京市と天津市に調査に行き、前年度に事前に所在確認をしておいた、当時の現地政権が作成した文書や占領していた日本の政府機関や調査機関が調査した報告書のうち、経済面において重要なものを実際に閲覧して、収集することができた。そして、収集した史料をもとに、都市部での物価上昇や、農村部での食糧増産など、具体的な様相を看取することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に、「大東亜共栄圏」政策の基本計画となる主要物資の長期的数値目標の形成過程を分析したことにより、その後の物資動員計画を軸にした圏内の経済政策の基盤を理解することができた。また、1943年以降の物資動員計画に関する先行研究の成果を把握して、圏内の経済政策の推移について理解を深めることもできた。これらは、今後の政治外交政策との関連を解明していく上で、研究の進展に寄与することになるであろう。 第2に、中国での現地調査が、現地の文書館の整備と現地の研究者や院生の協力により、予定通りに進展していることである。本年度においては、昨年度の予備調査で所在確認を行った北京市や天津市にある史料保存機関の史料を実際に閲覧して、一定程度、収集することができた。また、日中戦争期の中国国民党が作成した史料が、中国において刊行され始めており、それらの史料集を所蔵している北京市にある首都師範大学図書館で閲覧して、収集することもできた。このように、中国における現地の状況を把握する上で必要な史料の収集が、大幅に進展した。 第3に、国内の文書について、国立国会図書館憲政史料室が保管する柏原兵太郎文書や、美濃部洋次文書など、戦時期の経済官僚の残した史料群を、再度、精査することにより、「大東亜共栄圏」における経済政策に関して把握していなかった史料を見いだすことができた。 第4に、昨年度及び今年度前半に収集した史料について分析した研究成果を、学会において発表することができた。ただ、今年度は多くの史料の収集を優先したため、史料の整理については充分ではない。今後は、史料の収集と分析、整理をバランス良く進めて行きたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の5点を中心に研究を推進していきたい。第1に、最も進捗が遅れている「大東亜共栄圏」政策の政治外交政策に関する史料の収集と分析に注力したい。そして、これまで明らかにしてきた経済政策の展開との関連性について分析を進めたい。 第2に、「大東亜国土計画」の中でも、まだ分析が充分になされていない、植民地台湾の国土計画について、関連する史料と照合して、その特質を解明するとともに、実際の状況との関連や政策への影響について明らかにしていきたい。そして、「大東亜国土計画」の各地の分析を総合し、全体的な特徴や問題点を解明して、地域統合政策が有していた矛盾点をあきらかにする。 第3に、中国華北地方の現地状況に関する史料の収集について、今年度の調査では収集しきれなかったものについて、追加の調査と収集を実施することである。北京市や天津市にある史料保存機関や図書館において、現地での研究協力者の援助を得ながら、さらなる史料の収集を行う。 第4に、中国で収集した史料の分析を本格的に開始することである。関連する中国近現代史や日中関係史の先行研究を検討するとともに、日本の政策と現地の実態を照合して分析を進めたい 第5に、昨年度、研究発表を行った「大東亜共栄圏」構想における長期的な物資生産目標の立案過程についての分析を、学術論文としてまとめて発表することである。そして、これらの5つ作業と併行して、収集した史料の整理を進めたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、中国における史料収集が現地研究者の協力によって、調査・収集を効率よく行うことができたことや、研究発表を予定していた学会の開催方法が変更になったことなどにより、全体的に各費目の経費支出が抑えられたためである。 使用計画としては、第1に、中国における現地調査を追加して行うために、北京市や天津市での滞在費や現地での研究協力者に支払う謝金に使用する。第2に、研究代表者が本研究を進めていくうえで必要となる書籍や資料集の購入費、文具費に使用する。第3に、本研究の研究成果を、学会発表するために必要となる旅費に使用する。次年度は、台湾における国際学会において研究成果を発表することを予定している。
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