2018 Fiscal Year Research-status Report
幕末維新期における情報ネットワークと思想形成―東北諸藩士を素材として―
Project/Area Number |
17K03091
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
友田 昌宏 東北大学, 東北アジア研究センター, 専門研究員 (80721266)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 情報 / ネットワーク / 東北 / 幕末維新 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は平成29年度に調査を行った課題の成果を、著書『東北の幕末維新―米沢藩士の情報・交流・思想―』にまとめることに全力を傾けた。この本では、幕末維新期に活躍した甘糟継成・宮島誠一郎・雲井龍雄という3人の米沢藩士を取り上げ、変革期にあって情報とそれをもたらすネットワークが、個人の思想にいかなる影響を与えたのかを考察した。 宮島は戊辰戦争の際、勝海舟と出会い、封建体制から中央集権体制への移行を時代の要請として感得し、国家の前に藩を相対化した。探索周旋活動における他者との交流は、宮島に情報のみならず国家意識転換の契機をも齎した。これに対して、甘糟は情報の重要性を強く認識し、藩に情報収集の必要性を訴えつつも、自ら他者と交流して情報を稼ごうとしなかった。なぜなら、彼にとって情報収集は身分の低い者の任であり、侍組たる己の仕事は、それをもとに政策を立案することだったからである。そして、その高い身分意識ゆえに藩意識に捉われ続けた。維新後、宮島は甘糟を藩外交の最前線に立たせ、様々な人物と交流させることで、その目を藩から国家へと向けさせようとした。そして、甘糟の目が国家へと転じつつあるのを見て取ると、人脈を駆使して彼を政府へと送り込んだのである。 以上のように情報は人との交流のなかではじめて思想の跳躍台たりえた。だが、戊辰戦争時、宮島と同じく探索周旋活動に従事した雲井は、維新後も封建体制に固執し、集権化をはかる薩摩への憎しみを募らせ、政府転覆を謀るにいたった。その姿は、集権化を国家的課題と認識し、薩摩へも人脈を広げ、官途をえた宮島とは対照的である。二人を分かったのは、いつ誰と出会い、誰に強く影響を受けたかである。雲井ははじめて江戸に出たとき安井息軒に大きな影響を受けた。息軒の教えにより、雲井の封建思想は確乎たるものとなり、それは戊辰戦争での探索周旋活動を経ても変わることがなかったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度の成果をまとめるのに思いのほか時間がかかったため、本年度の課題である会津藩公用方の考察に移るのが遅れた。平成30年10月に著書を刊行したのちも様々な理由で研究は思うようにはかどらず、わずかに、以前、三沢市先人記念館で撮影した画像をもとに、史料の解読に着手したに過ぎなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、平成30年度にやり残した会津藩公用方に関する研究を進める。それと同時並行して31年度のテーマである南部藩の那珂梧楼の史料を収集する。こちらに関しては、史料の読解を先行し、考察については可能な限り行うということにしたい。
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Causes of Carryover |
史料調査に行く予定であったが、成果の執筆等で時間が取れず行けなかったため次年度使用額が生じた。この分は主に次年度の史料調査に当てたい。
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