2020 Fiscal Year Research-status Report
現代都市下層社会と「民衆的知識人」に関する研究‐大阪「釜ヶ崎」の事例を中心に‐
Project/Area Number |
17K03099
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
能川 泰治 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (30293997)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 都市下層社会 / 釜ヶ崎 / オーラル・ヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、本研究課題の補助事業期間最後の年にあたるので、研究発表と論文作成に注力する予定であった。しかしながら、昨年度末からの新型コロナウィルス感染拡大の深刻化にともなって、大学の仕事が想像を絶するほど多忙になったため、年度の前半は本研究課題に取り組むことが全くと言っていいほどできなかった。 ただし、2019年度に取り組んだ、釜ヶ崎に長らく暮らしながら様々な社会運動に取り組んでこられた女性のライフヒストリーを聞き取り記録としてまとめ、「聞き取り記録 ポスト高度経済成長期の釜ヶ崎を生きる日本人女性のライフヒストリー」というタイトルの論稿として、『金沢大学歴史言語文化学系論集 史学・考古学篇 第13号』に掲載することができた。 この聞き取り記録で紹介した女性のライフヒストリーは、高度経済成長期に集団就職で郷里の九州から大阪に出てきた後、職業を転々としながら労働組合運動やベトナム反戦運動などの社会運動に参加し、さらにキューバでのサトウキビ刈りボランティアやパレスチナでの医療ボランティアに参加し、帰国後には釜ヶ崎に生活の拠点を移し、そこで野宿生活者支援をはじめとする様々な運動に関わりながら今日に至っている、というものである。 近年は、固有名詞をもつ人びとの体験を軸として、聞き取りによって聞き出した声をまじえながら、時代の変化は人びとにどのような影響を与えたのか、また、人びとは時代の変化にどう関わったのかを問う研究が蓄積されている。しかしながら、それらの研究では、人びとの国境を越えた移動や戦争体験を論じる場合に、戦後の海外での紛争の体験や第三世界へのボランティア経験は視野に入っていなかった。その意味で、当該年度の研究は、日本現代史の描き方を豊富化させるための重要な視角と素材を獲得できたと言えるであろう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染拡大の深刻化により、大学の仕事が想像を絶するほど多忙になったため。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況を「やや遅れている」と自己評価せざるを得ない現状を真摯に反省し、刊行することのできた聞き取り記録をもとにした研究論文、及び2019年度におこなった同時代史学会における研究発表をもとにした研究論文の作成が実現できるように努力する。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の深刻化により、研究活動が大きく制約されたこと、特に研究発表やそのための出張が一度もなかったことが、次年度使用額が生じた主な理由である。この次年度使用額は、2021年度に刊行される高額の資料集の購入と、聞き取り記録の印刷経費などに使用する予定である。
|