2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K03102
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
町田 哲 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (60380135)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 近世 / 地域社会 / 焼畑 / 林業 / 資源 / 流通 / 村落 / 藩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、阿波の山間地域を素材に、近世日本の森林資源をとりまく生業と流通構造について、具体的に解明することを目的としている。多くの森林資源を、人々がいかに管理・利用し、再生産してきたのか。この点を軸にしながら、18-19世紀における地域社会の変化を、支配構造・市場構造との関連の中で捉え直そうとするものである。具体的な研究対象は、林業経済史の中で「林業地帯」とされてきた阿波国那賀川上流の木頭地域である。 2年目にあたる2018年度は、(1)基礎史料調査、(2)コア地域研究、(3)広域連環地域研究、(4)関係史料データベースの作成という四つの作業領域を設け検討を進めた。 (1)として、湯浅家文書(旧阿波国那賀郡木頭村)の調査を進めた。湯浅家は、近世初頭から木頭村の肝煎・庄屋・組頭庄屋を務めた家である。本年度は、調査補助を得ながら、全18箱すべての現状記録調査と写真の全点撮影を終了させたことが大きな成果である。 (2)としては、湯浅家の所在する近世木頭村の地域社会構造分析を進め、「切畑」として登録された山の、所有と利用のあり方(焼畑・薪・炭・椎茸・茶・楮)を明らかにし、その社会的諸関係が村の同族団関係(「株」)と深く関わっていることなどを解明した。その成果の一部は、論文として公表した。 (3)としては、「取山」とよばれる那賀川上流にのみみられる徳島藩独自の山林類型について分析を進めた。あわせて、椎茸・茶などの産物が那賀川を経由して移出されていく様を、船持・荷問屋・小寄人という存在に着目し、分析を開始した。さらに、同じ徳島藩領でも吉野川水系・祖谷山地域における焼畑の存在形態を分析し、論文として公表した。これは那賀川上流地域の焼畑との比較を進める上で、重要な手がかりとなった。 (4)として、(1)の写真をもとに、湯浅家文書のデータベース化の作業を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目にあたる2018年度は、計画通り下記の研究を進めることができた。 基礎史料調査 当該地域の中心的文書群である湯浅家文書(旧阿波国那賀郡木頭村)の調査を進めた。2018年度末までに、全18箱(史料単位)の現状記録調査と、全点の写真撮影を、予定通り終了させることができた。 那賀川上流地域の特徴を具体的に明らかにするコア地域研究としては、初年度に引き続き、湯浅家文書の所在する近世木頭村の地域社会構造分析を進めた。その結果、当該地域では、山の所有・利用に同族団が大きく関わっている点が明らかとなった。つまり「切畑」として登録された山を、「株」(同族団)の長である「壱家」が所有し、そのもとで「小家」が焼畑(穀物生産)や休閑期利用(薪炭・茶・楮生産)をしていたこと、近世の後期になるとこうした同族団的結合をつき破るような関係が新たに生み出されていくことが判明した。その成果の一部を「近世後期の焼畑と村落構造」(『歴史評論』825)として公表することができた。 さらに、焼畑の比較類型にむけて、同じ徳島藩領でも吉野川水系に位置する祖谷山地域の焼畑を検討した。祖谷山では「名主」と呼ばれる壱家が「名」を支配し、「竿外地」(検地登録外の山野)を独占する特権を与えられていたことが判明した(「近世祖谷山と名に関する基礎的考察」『阿波学会紀要』62)。集落単位のコミュニティを「株」とするか「名」とするか、あるいは検地帳登録外か否かという点では異なるが、山野利用の独占をテコに壱家(名主)がその結合の核となっている点では共通するという点を見いだすことができたと考える。 あわせて近世村落の内部構造分析の方法論錬磨を意図し、「三田智子著『近世身分社会の村落構造』に学ぶ―村落論の立場から―」(『部落問題研究』228)を発表した。ここで学び得た視点を、本研究においても活かしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
1)基礎史料調査、および4)湯浅家文書の目録データベースの作成;初年度・2年度で進めた湯浅家文書の調査成果を整理し、全点のデータベース化の早期完成・公開を目指す。残る7箱分の目録作成・入力を、可能な限り進め、今後の公開に備えたい。 2)コア地域研究;初年度・2年度の成果である「近世後期の『切畑』と村落内関係」について、さらに分析し、成果を論文発表する。あわせて、「切畑」で生産された産物を含め、材木・薪炭・茶などの産物がいかに〝生産〟されたのかを、地域社会構造の中で位置づける分析を進める。 3)広域連環地域研究;材木・薪炭・茶などの森林資源を、那賀川を介して流通させていく際に、高瀬船持や荷問屋と呼ばれる存在が重要な役割を果たしていた。この点をふまえながら、徳島藩が19世紀に実施した、山の産物流通統制「仁宇谷産物趣法」の実態や社会矛盾を解明する。この趣法は、藩が山村の百姓に銀子を前貸し、材木・炭・茶等の産物を那賀川河口の役所で回収、これを他国船に販売するシステムである。湯浅家は、その取締役を担当していたことから、関係史料が湯浅家文書には豊富に含まれている。特に、「小寄人」と称する山方の仲買商人や、那賀川中流域に存在した「荷問屋」の形態、さらには河口部の諸問屋と徳島城下町商人との関係に着目することで、19世紀の流域における産物流通の実態や、それに対する藩統制のあり方を解明し、地域の変容を動態的に把握することを目指す。 あわせて「仁宇谷産物趣法」には含まれない、椎茸や紙の生産や広域的な流通構造に着目し、これを分析する。
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Research Products
(5 results)