2017 Fiscal Year Research-status Report
戦後における柳田民俗学の組織的再編に関する基礎的研究 1945~1949
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17K03109
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鶴見 太郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80288696)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 民間伝承の会 / 柳田国男 / 民俗 / 郷土 |
Outline of Annual Research Achievements |
敗戦直後の柳田民俗学は、組織として極めて早い立ち直りを見せている。1945年9月9日には、戦災によって中断していた民俗談話会「木曜会」が再開されており、以後、継続的に運営される。また、戦時下に稿を起こした『先祖の話』は、敗戦時下機意識を背景に書かれたことを考慮しても、同書で展開された日本人の霊魂観は大幅な変更を加えられなかったことは、柳田の学が戦中戦後を通じて見せた不易性の証左と見てよい。 戦後間もない時期における柳田の読書を成城大学民俗学研究所の「柳田文庫」から検討してみると、ひとつの特色として、特定の歴史学者の著書を戦前戦中から継続して読んでいることが判明した。おおむねそれらの著者は、時代を問わず考証的な手法を重ねており、そこに記された情報、分析が柳田にとって資するものだったと判断される。とりわけ、津田左右吉『日本の神道』(1949年)、『日本文藝の研究』(1953年)の2著については、随所に付線が引かれており、詳細に読まれた形跡がある。 戦後における「神道」という言葉の使われ方について、柳田はその混乱を是正すべく、的確な用例を参照することが多かったが、この事実は、津田の著作に対してもその価値を一部にで認めていた可能性がある。以上の点を「柳田民俗学から見た津田左右吉ー「柳田国男文庫」を中心にー」としてまとめ、戦前から津田の著作に対する柳田が行った書込一覧とともに、『津田左右吉とアジアの人文学』第4号(2018年3月)に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
敗戦直後の再開から、日本民俗学会設立による再編というふたつの画期を重視ししながら、1945年9月から49年末までを対象に、「民間伝承の会」の動向について、会員からの通信を中心に分析をすすめ、一定の成果を得た。新規に入会を希望する事例だけでなく、戦後の『民間伝承』復刊に関する問い合わせる通信が地方の会員をふくめ、数多く見られることを確認した。今後これと併行して、戦後の「民間伝承の会」に新規で入会した人物、及びその特徴についても検討を加えていく予定である。 また、これと併行して戦後間もない時期ににおける柳田国男の読書について、成城大学民俗学研究所の所管する「柳田文庫」所蔵の書籍を素材に、線やチェック記号の付け方などから検討を継続的に行っている。国家神道と氏神信仰との区別を明確にすることのないまま、急激に上から行われる戦後改革に対して柳田国男は懸念を表明しており、柳田自身が置かれていた思想上の位相を加味しながら、これらの資料を読み解いていくことを考えている。 これ以外の事項として、後に『海上の道』(1960年)に収録されることになる論考の構想がこの時期、すでに練られていたことを考慮して、柳田の関心がどこに向けられていたのか、その読書記録から考察中である。同書は柳田自身の青年時代における記憶を出発点としていることが強調されるが、米軍統治下における沖縄、北方騎馬民族説への反駁など、同時代的な要因も介在しており、戦後史における同書の位置付けを念頭に置いた分析を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、「民間伝承の会」による戦後の組織化について運営資料を中心に検証を進める予定である。その際、戦時下における同会の関係資料を分析した蓄積の上に立って、戦後の柳田民俗学の動向をさぐる。1949年の日本民俗学会設立前後とは、「学会」化という意味でまさに組織上の再編期に当たるため、相当な会員の異動(退会、継続、新規加入をふくむ)があったと考えられるため、戦前戦中との比較が不可欠となる。 また、新潟の『高志路』や、長野の『信濃』(第一次~第三次)、あるいは大阪民俗談話会(大阪民談会)など、戦中戦後と継続して目立った活動を続けてきた地方の郷土研究会の運営状況を照合することも組み入れながら考察をすすめる。「民間伝承の会」設立時から有力な郷土史家が在地で活動しており、その求心力が戦中戦後、継続したこと以外に、それらの地域においても中央と同様、会員の異動に代表される組織上の再編が行われたという想定の下で、考察をすすめる予定である。 柳田民俗学は無名の個人によって記憶、経験がなされた民俗事象を記録することに力点が置かれており、それらを集積して一定の法則性を得る上で、地方の郷土史家の協力が不可欠な構造を持っていたことを考慮すれば、戦後の「学会」化は、明らかにその機能に影響を与えたといえる。今後はこれまで重点的に取り上げてきた地方の有力な郷土史家の動向に注目しながら、この課題を検証していく予定である。
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