2017 Fiscal Year Research-status Report
日本仏教の台湾布教における植民地主義の連続性と非連続性に関する史的研究
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17K03122
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
松金 公正 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (50334074)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 台湾 / 仏教 / 布教 / 植民地 / 宗派 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、本研究課題に関する初年度であったため、まず、近年の研究成果を整理するために参考資料を購入、収集し、先行研究の整理を行った。次いで、本邦、及び台湾における現地調査研究を進めるとともに、国内外の研究協力者と意見交換を行いつつ、本研究課題の問題設定、基本的な研究の方向性についての考え方の調整を図り、それに基づいて大まかな全体像の把握に努めた。主な調査内容は以下の通り。 国内における現地調査研究としては、まず、平成29年5月26日から28日に京都において、浄土真宗本願寺派・大谷派等を中心に宗派機関誌史料の収集を実施した。次いで12月23日から24日、平成30年2月11日から12日に仙台の東北福祉大学、及び曹洞宗関連の寺院等において、布教使関連の資料収集を行った。特に植民地布教に重要な役割を果たした曹洞宗僧侶布教使佐久間尚孝に関する資料の一部を得ることができたことは、本研究の進展に大きな意義があった。 国外においては、平成29年10月14日から18日に台湾総督府の対仏教政策、中華民国の戦後台湾における仏教政策に関する史料について、台湾の中央研究院近代史研究所図書館、国立台湾図書館、国史館、国家図書館、国立台湾大学図書館等において収集した。また、平成30年3月8日から13日に布教使関連の資料を雲林県土庫鎮、虎尾鎮等で収集した。特に土庫鎮順天宮において得ることのできた真言宗布教使に関する史料は、当時の布教使と現地信徒の関係性について新たな知見を導き出す可能性をもつものといえ、本研究にとって重要な意味をもつ。さらに、日本仏教と中華民国仏教との間の関係性を研究している中央研究院近代史研究所訪問研究員のエリック・シッケタンツ等と意見交換を行った。植民地時期、及び中華民国仏教会関連の史料所蔵、公開に関する理解を深め、次年度以降の現地調査研究の精緻化に関し、有益な議論ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、当初の計画から若干の変更もあったが、おおむね順調に進んでいるといえる。 まず、近年の先行研究に関する資料収集を進め、それらを踏まえ、本研究における分析の視角を設定した。そして、その基本的な内容については、書評「中西直樹『植民地台湾と日本仏教』(三人社、平成28年)」としてまとめ『近代仏教』25号に投稿した。 また、各宗派の史料については、台湾・福建への布教を積極的かつ組織的に行った宗派のうち浄土真宗本願寺派・真宗大谷派、曹洞宗等を中心に機関誌史料の収集を実施した。また、渡台布教使に関する私文書史料としては、仙台の昌傳庵他において曹洞宗によって創設された東北福祉大学の前身教育機関関係者に関する資料の収集ができ、本研究の進展に大きな影響を与えるものとなっている。他方、台湾総督府の対仏教政策に関する史料については、中央研究院、国立台湾図書館で収集した。さらに中華民国の戦後台湾仏教政策に関する史料収集については国史館において実施した。 このような現地調査研究を踏まえ、平成29年11月26日に台湾の逢甲大學で開催された「2017年佛學與人生國際學術研討會(シンポジウム)」において、「殖民地時期在台日本佛教推動的生命教育―以日本佛教在台灣展開的社會事業(1895~1937)為主―」という報告を行った。 以上のように、本研究活動は総じて順調に進んでいると判断するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、植民地台湾において日本仏教が、現地の文化や宗教と相互にどのような交渉をもちつつ布教活動を展開したのかについて、僧侶・信者の活動、及び現地の人々との交渉に関する史料分析を通じて実証的に明らかにすることにある。 従来、宗派機関誌などを踏まえた研究が一定程度進められてきており、本年度においても重要な資料を収集することができた。しかし、「日本仏教が、現地の文化や宗教と相互にどのような交渉をもちつつ布教活動を展開したのか」という点を理解するためには、現行の公式記録のみでは難しく、布教使の私文書を収集する必要があったが、ほとんど手つかずの状態であった。 本年度、そのような布教使の私文書収集について若干の可能性を感じることができたところ、次年度以降は、各宗派の機関誌をさらに網羅的に集めるとともに、東北の曹洞宗に関する私文書所蔵の可能性を追うこととする。また、台湾に残されている日本仏教の痕跡を再度洗い直し、フィールド調査を通じ、僧侶と現地の人々との交渉を明らかにする資料の収集に努める。更に収集した資料のデータベース化について初期的な枠組みを構築する。
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Research Products
(1 results)