2018 Fiscal Year Research-status Report
日本仏教の台湾布教における植民地主義の連続性と非連続性に関する史的研究
Project/Area Number |
17K03122
|
Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
松金 公正 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (50334074)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 台湾 / 仏教 / 布教 / 植民地 / 宗派 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、本研究課題に関する第2年度であったため、平成29年度の調査研究を踏まえた上で、本邦及び台湾における現地調査研究を進めるとともに、国内外の研究協力者と意見交換を行いつつ、本研究課題の問題設定、今後の研究の方向性についての考え方の調整を図り、それに基づいてより精緻な全体像を描くことに努めた。主な調査内容は以下の通り。 国内における現地調査研究としては、昨年度の調査により東北地方の曹洞宗が台湾布教に深くかかわっていることが分かったため、まず、平成30年7月、9月、11月、平成31年1月、2月に宮城、岩手、秋田の曹洞宗関連の寺院等において、布教使関連の資料収集を行った。また、7月に金沢において、浄土宗忠魂堂等に関する史料を収集した。さらに12月には愛媛において、南瀛仏教会に関する資料収集を行った。特に植民地布教における学校教育、社会教育に重要な役割を果たした木村雄山、升田栄、佐久間尚孝等に関する資料の一部を得ることができたことは、本研究の進展に大きな意義があった。 国外においては、平成31年3月に台湾総督府の対仏教政策、中華民国の戦後台湾における仏教政策に関する史料について、台湾の国立台湾図書館等において収集した。また、布教使関連の資料を花連県吉安郷、雲林県土庫鎮、嘉義県渓口郷等で収集した。特に渓口郷北極殿において得ることのできた真言宗布教関連資料は、昨年度収集した資料と密接に関わり、新たな知見を導き出す可能性をもつものといえ、本研究にとって重要な意味をもつ。 また、平成30年9月14日に行われた天理大学中国文化研究会において「植民地期台湾における真言宗の布教方針の転換と在来寺廟」で報告を行うなど、今年度は研究成果の公表と専門家との意見交換に努めた。植民地時期、及び中華民国仏教会関連の史料所蔵に関する理解を深め、次年度以降の現地調査研究に関し、有益な議論ができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、当初の計画から若干の変更もあったが、おおむね順調に進んでいるといえる。 一点目としては、計画以上に日本、台湾での資料収集が進んでいる点が挙げられる。紙媒体はもちろん、関係者への聞き取り調査も昨年に引き続き実施した。さらにモノ資料に関する情報収集も順調である。 二点目としては、数多くの新資料を発掘できた点が挙げられる。特に曹洞宗が設置した台北中学校の最後の校長である木村雄山に関するもの、『南瀛仏教』等、台湾で発行された仏教雑誌に数多くの投稿をしていた升田栄元台北帝国大学図書館長に関するもの、新竹を中心に台湾人を含めた布教活動に従事していた佐久間尚孝に関するもの等は、本研究の進展に大きな影響を与えるものといえる。また、真言宗が高野山から台湾に送った観音像を新たに渓口郷北極殿において発見した。 三点目としては、研究成果の公刊・公開を順調に進めた点が挙げられる。昨年度台湾の逢甲大學で開催された「2017年佛學與人生國際學術研討會(シンポジウム)」においての報告をベースとした中国語の論文を同シンポジウム論文集に「殖民地時期在台日本佛教推動的生命教育―以日本佛教在台灣展開的社會事業(1895~1937)為主―」として掲載できた。本論稿は、現地の専門家2名の査読を経て掲載が決定したものである。このほか、昨年以来進めてきた真言宗の布教に関しては、柴田幹夫編『台湾の日本仏教―布教・交流・近代化』(勉性出版)に掲載され、さらに9月14日に天理大学中国文化研究会において報告を行った。さらに研究内容を一般向けにもわかるように書いたものを『多文化共生をどう捉えるか』(下野新聞社)に掲載した。 以上のように、本研究活動は総じて順調に進んでいると判断するものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、植民地台湾において日本仏教が、現地の文化や宗教と相互にどのような交渉をもちつつ布教活動を展開したのかについて、僧侶・信者の活動、及び現地の人々との交渉に関する史料分析を通じて実証的に明らかにすることにある。 従来、宗派機関誌などを踏まえた研究が一定程度進められてきており、本年度においても重要な資料を収集することができた。しかし、「日本仏教が、現地の文化や宗教と相互にどのような交渉をもちつつ布教活動を展開したのか」という点を理解するためには、現行の公式記録のみでは難しく、布教使の私文書を収集する必要があったが、ほとんど手つかずの状態であった。 昨年度と本年度において、そのような布教使の私文書収集について若干の可能性を感じることができたところ、次年度は、最終年度として各宗派の機関誌をさらに網羅的に集めるとともに、東北の曹洞宗に関する私文書所蔵の可能性を追うこととする。そして、かかる私文書の操作・活用方法の一般化・理論化をはかりたい。さらに、台湾に残されている日本仏教の痕跡を再度洗い直し、フィールド調査を通じ、僧侶と現地の人々との交渉を明らかにする資料の収集に努める。更に収集した資料のデータベース化について枠組みの提案を行う。
|
Research Products
(4 results)