2018 Fiscal Year Research-status Report
オスマン帝国近世~近代における社会変容とイスラム知識人(ウラマー)名望家層の成立
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17K03125
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松尾 有里子 東京大学, 東洋文化研究所, 特任研究員 (50598589)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 東洋史 / イスラーム / 女性 / ウラマー / 帝国 / 名家 / 知識人 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度の前半は平成29年度のトルコ共和国(首相府オスマン文書館)への史料調査時に収集した16世紀~18世紀中葉までのエブッスード家のワクフ(宗教寄進地)や財産目録、オスマン政府からの任命状、勅許等の解読、及びデータ分析を中心に研究を遂行した。ここでエブッスード家を中心とした官僚制内部やイスタンブル社会における様々な人的ネットワークの情報をもとにデータベースを作成し、家門形成の要因を分析し始めた。さらに夏季にはシカゴ大学のオスマン文書史料を調査するため渡米し、16-17世紀の官僚制度に関する史料を閲読、収集するとともに、16~17世紀のオスマン帝国の官僚制を研究しているシカゴ大学のコーネル・フライシャー教授と意見を交換し、研究への新たな知見を得た。平成30年度後半は、これまで収集してきたオスマントルコ語史料の分析の成果を論文にまとめる作業にその大部分を費やした。そこでは、主にエブッスード家の近世~近代の女性の学歴・キャリア分析を行った。その作業の中で、オスマン近代の社会における女性教師の育成過程とその後の活動に着目し、その一部を「オスマン帝国近代における女子師範学校ー公教育制度の発展と女性教師たち」『お茶の水史学』62号にまとめ、発表した。 さらに、平成31年3月には、大統領府の管轄となったオスマン文書館を再度調査に訪れ、エブッスード家の文書で前回調査時に閲覧不可能であった文書類を確認するとともに、近代オスマン女子教育制度史に関する新たな史料の調査研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の第二年度である本年度は、夏にアメリカ、冬にトルコ共和国での史料調査をすでに計画していたため、その予定の合間に前年度の研究成果を論文にまとめねばならず、史料の解読とデータの分析を計画的に進めることができた。シカゴ大学図書館と大統領府オスマン文書館での調査で新たにエブッスード家の宗教寄進地や所有財産に関わる史料及び官僚制組織に関する史料を得たため、年度後半はその解読に多くの時間を費やした。そのため、当初予定していたエブッスード家発祥の地である中央アナトリアのチョルムへの調査はできなかったものの、当該地の遺構に関する史料は入手できた。29年度から30年度夏期調査までの研究成果の一部 は、論文「オスマン帝国近代の女子師範学校ー公教育制度の発展と女性教師たちー」「お茶の水史学』62号にまとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
第三年度の目標は、まず、第二年度までの現地史料調査の分析とその成果の一部を5月12日の日本中東学会(秋田大学)と7月6日のオスマン史研究会(東京)で行うことである。また第二の目標として、第一年度に国際シンポジウム(早稲田大学)で発表したエブッスード家の家系形成に関する報告を英文にし、他の研究者とともに発表することである。また、夏季にはトルコ共和国中央アナトリアのチョルムへの調査と大統領府オスマン文書館で史料調査を再度行う予定である。 この目的を達成するため、前半期は第二年度までに収集した史料の解読、分析を引き続き行うとともに、そこに現れた同家をめぐる人的関係の情報を集約し、データの分析を行いながら、家門の形成、発展を時系列に詳細に検討していく。第三年度の後半は、これまでの研究成果を和文学術雑誌『オリエント』または『日本中東学会年報』に、また先の英文叢書に発表できるよう執筆に専念する予定である。
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Causes of Carryover |
第二年度の研究の進捗状況を踏まえ、第三年度において国際シンポジウムでの発表内容を英文の論文にまとめるため、その予備史料を収集すべく、再度現地調査を行う必要性が生じた。その旅費として次年度に使用する予定である。
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