2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K03128
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大橋 厚子 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (80311710)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 強制栽培制度 / 一次産品輸出 / ジャワ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主要課題は、19世紀ジャワ島「強制栽培制度」にかかわる先行研究を見直し、新たな分析枠組みを得ることであった。 1)「強制栽培制度」に関する先行研究に欠けている視点のひとつに、グローバル、フィージョナルな経済動向との関連がある。報告者は既に2012年に、「強制栽培制度」の導入が可能となった一因に、コーヒー、砂糖などの価格の大きな下落、そして国際通貨制度の混乱にあると論じたが、2017年度にさらに考察を深め、『銀の流通:19世紀前半の中国と東南アジア』と題した編著を2018年度前半に山川出版より出版予定である。また報告書の執筆部分の英語版を2018年度3月にディスカッション・ペーパーとして名古屋大学大学院国際開発研究科のウェッブサイトにアップした。 2)「強制栽培制度」を成立させたメカニズムについて今後研究を実施すべき領域として次が挙げられる。第一に、植民地政庁が現地人支配層と住民のニーズを満たし、かつ一次産品を低価格で入手する方法として、紙幣と銅貨による前貸しの実施と、水利灌漑設備の建設が挙げられる。これらの論点は既に2012年に論じているが、これに加えて灌漑田耕作の拡大による定住化の促進および輸送システムの構築による住民の移動の減少が、栽培その他の労役の遂行を可能としたと考えられる。第二に、先行研究では史料の枠組に影響を受けて、栽培賦役を行う者に焦点が当てられてきた。この結果村内の富裕層、および栽培労役を行わないが道路建設などの賦役を行う者の動態が見過ごされてきた。報告者の試行的調査では、各地方によって多様であった社会組織が、「強制栽培制度」期に村内における農民の二極分解にともない、村内で賦役を実行する下層の者については、ジャワ島で画一的な性格を付与されていったと推測される。この点については、手始めに賦役を請け負う者としての富裕層の動態から明らかにしてゆきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究業績実績の概要に述べた通り、第一年度の目標である先行研究の見直しの中での新しい研究枠組みの提出と、新たな研究領域の特定をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要のように実証すべき論点と領域を提出したので、今後は史料によって具体的な様態を明らかにしたい。専門的に考察する地域は、西ジャワ、特にプリアンガン地方とするが、その他の地域についても刊行史料および既存の研究を利用して、類型を提出しながらジャワ島の全体像を描く予定である。2018年度には、賦役を請け負い下層の者たちに賦役を実行させるもの者としての富裕層の動態を明らかにしてゆきたい。
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Causes of Carryover |
先行研究文献の検討の際に、当初予定していた、東京大学東洋文化研究所および京都大学東南アジア研究センターの蔵書を閲覧する必要が無くなったため、旅費が少なくて済んだ。 次年度使用額は、英語での成果発信を強化すべく、英文校閲費に使用する予定である。
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Remarks |
Atsuko Ohashi. 2018. An Era of Deflation and Southeast Asia: The First Half of the Nineteenth Century. Discussion Paper No. 207. Graduate School of International Development, Nagoya University. pp.25.
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