2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K03130
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中西 竜也 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (40636784)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中国ムスリム / イブン・アラビー / スーフィズム / スーフィー教団 / 馬徳新 / 門宦 |
Outline of Annual Research Achievements |
イブン・アラビーの『叡智の台座(Fusus al-hikam)』に基づいて、中国ムスリムの著名な学者、馬徳新(1874年没)が著したアラビア語著作『帰処の諸神秘(Asrar al-ma`ad)』と、その著作を下敷きにして、馬徳新の監修のもとにその弟子が漢語で著した『大化総帰』とを比較し、三著作の差異を明らかにした。それにより、中国におけるイブン・アラビー思想(とくに来世論)の「中国化」の一端を明らかにし、その内容について英語論文を作成した。同論文は、現在、校正中である。 なお、類似の内容の日本語論文を昨年度の末に発表していたが、今回あらたにイブン・アラビー(1240年没)の『メッカ啓示(Futuhat al-Makkiyya)』中に関連史料(火獄での浄化について)を探し出し、議論をより説得的にすることに成功した。すなわち、馬徳新がイブン・タイミーヤ(d.1328)の来世論の影響を受けていた可能性、ひいては同時代の西アジアにおける、後にサラフィー主義へと発展することになるイスラーム改革思潮から霊感を得ていた可能性についての論証を強化した。 また、張中(17世紀半ば)の『帰真総義』の中にも新たに関連史料(火獄での幸福について)を見つけ出し、張中と馬徳新の差異、換言すれば、中国でイブン・アラビーの著作が直接参照されるようになる以前と以後の差異を明らかにした。かくして、中国イスラームの思想史的展開に関わる議論を追加することができた。 そのほか、中国で現地調査を行い、19世紀の中国西北部においてペルシア語で書かれた聖者伝『心の歓喜(Nuzha al-qulub)』の写本をデジタル・カメラで撮影することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
『心の歓喜』のペルシア語写本は、研究期間三年をかけて捜索する予定であったが、現地の方の親切なご理解とご協力により、意外にも早く入手することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
『心の歓喜』は、19世紀雲南(中国南西部)で活躍した馬徳新とほぼ同時代の西北部において、イブン・アラビーの思想と、その批判者アフマド・スィルヒンディー(1624年没)の思想とがいかに受容されていたかを知るうえでの、格好の史料である。今後は、それにより、雲南の馬徳新と中国西北部とでイブン・アラビー思想の受容の在り方がどのように異なっていたか、19世紀中国におけるイブン・アラビー思想の受容は全体としてどのような様相を呈していたか、を探るつもりである。
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Causes of Carryover |
次年度使用額の発生理由は、国際学会への出席が決まったため春季の現地調査を取り止めたこと、および予定していた英文校閲費が期せずして不要になったことである。 次年度使用額は、現地調査費用と別に新たに必要となった英文校閲費に使用する予定である。
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