2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K03130
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中西 竜也 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (40636784)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中国ムスリム / イブン・アラビー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀の中国ムスリムによるイブン・アラビー(1240年没)思想の受容如何を検討し、その有様を西南アジアのイスラーム思想潮流や中国イスラーム思想史の上に位置づけることを目的とする。 そこで本年度は、19世紀中国西南部、雲南で活躍した中国ムスリム学者、馬徳新(1874年没)の、『理学折衷』という漢語タイトルをもつ、アラビア語著作を通読し、同書に説かれる、イブン・アラビーの存在一性論や、聖者崇拝批判の思想を分析し、同時代の西アジアのイスラーム思想潮流にたいする位置づけを試みた。結果、馬徳新が、メッカ巡礼・西アジア周遊の際に受容した、聖者崇拝批判の思想を、存在一性論によって根拠づけつつ過激化し、独自に展開させていたことを明らかにした。また、馬徳新と対立関係にあった、スーフィー教団ジャフリーヤが、同じく存在一性論によって聖者崇拝を擁護していたことを、ジャフリーヤのアラビア語聖者伝から明らかにし、これへの対抗の意図から、馬徳新が独自の聖者崇拝批判の議論を行ったとの推察を得た。(この成果については、2019年4月28日、東京大学東洋文化研究所・エクセター大学の共同国際ワークショップで英語の口頭発表を行った。) 加えて、17-18世紀の代表的な中国ムスリム学者、王岱輿と劉智が、それぞれの時代背景に合わせて存在一性論をいかに漢語で表現していたかを考察(東方学者会議シンポジウムで口頭発表し、『歴史評論』に論文として発表)し、中国イスラーム思想史上における馬徳新の位置づけの足がかりを得た。 フィールドワークは、中国西北部のスーフィー教団におけるイブン・アラビー思想受容の状況を探るべく、甘粛省の臨潭と広河で調査を行い、一定の成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
馬徳新『理学折衷』は、昨年度、ハーバード大学イェンチン研究所のPickens Jr. Collectionの調査によって得た新しい史料(先行研究でも利用されてこなかった)であり、当初計画では分析対象として想定していなかったが、本研究の課題と密接に関係するため、どうしても急ぎ分析せねばならなかった。それによって、研究課題の探求は相当に深まったものの、当初計画からの遅れを来すこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度のフィールドワークで得たペルシア語史料『心の歓喜』の分析に本格的に取り組む予定である。同書は、19世紀雲南(中国南西部)で活躍した馬徳新とほぼ同時代の西北部において、イブン・アラビーの思想と、その批判者アフマド・スィルヒンディー(1624年没)の思想とがいかに受容されていたかを知るうえでの、格好の史料である。今後は、それにより、雲南の馬徳新と中国西北部とでイブン・アラビー思想の受容の在り方がどのように異なっていたか、19世紀中国におけるイブン・アラビー思想の受容は全体としてどのような様相を呈していたか、を探るつもりである。
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Causes of Carryover |
当初計画になかった新史料の分析に時間を要し、現地調査を取り止めたため。また、予定していた英文校閲費が期せずして不要になったため。 次年度使用額は、現地調査費用と別に新たに必要となった英文校閲費に使用する予定である。
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