2018 Fiscal Year Research-status Report
ユダヤ人難民は上海でいかにして第2次世界大戦を生き抜いたか
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17K03135
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
阿部 吉雄 九州大学, 言語文化研究院, 教授 (70231975)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ユダヤ人難民 / 上海 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度はユダヤ人の上海移住において太平洋戦争期、特に無国籍避難民(ユダヤ人難民)の居住と営業が虹口・揚樹浦の約2.5平方キロメートルの「指定地域」に制限されたゲットー期(1943年5月~1945年8月)について研究し、以下の論文として発表した。 1)論文「資料調査:上海のユダヤ人難民における冬期貧民救済事業(1943~1944年)」 ユダヤ人難民は上海方面大日本陸軍最高指揮官および同海軍最高指揮官連名のゲットー設置の布告により生活上大きな制限を受けていた。その上に、太平洋戦争による物資不足とインフレが加わり、難民の中の最も貧しい人々は上海の厳しい冬を前に悲惨な状況に置かれていた。同胞の彼らに衣服、靴、暖房用燃料を与えて冬を乗り切らせるために、上海ユダヤ教区とキッチン・ファンドが共同で行った募金活動に関して調査した。 その結果、比較的恵まれた難民たちだけでなく、底辺の人々も寄付をしたこと、芸術家やスポーツ選手も協力したこと、不用品の衣類を回収修理して支給したことを明らかにした。また3回行われた路上募金は大変盛り上がり、移住時以来希求されていたユダヤ人難民社会の連帯が初めて大きな規模で実現したことを確認した。 2)論文「資料調査:上海ユダヤ人ゲットーでの1944年3月14日の火災」 上海のユダヤ人難民研究においてこれまで報告されていなかったゲットー内の火災を調査した。ユダヤ人難民と中国人住民が居住する343 Ward Road里弄で起きた火災の被災者への難民コミュニティによる募金活動が冬期貧民救済事業以上の協力を集め、難民社会の連帯感が確実に定着したことを証明した。火災の際の難民消防団や自警団の活動も明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上海でユダヤ人難民が発行した日刊新聞『Shanghai Jewish Chronicle』(上海ユダヤ新聞)を読み込み、ゲットー期の1943~1944年冬における難民社会の互助活動を詳細に跡付けた。それにより上海のユダヤ人難民社会の代名詞とも言える「ゲットー期」の状況をコミュニティの具体的な活動と難民たちの意識に基づいて確認することができた。 上海のユダヤ人難民に関する研究でこれまで扱われることのなかった内容であり、一定の意義がある研究と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究範囲であったユダヤ人の上海移住開始から第2次世界大戦開戦を経て太平洋戦争開戦にいたる時期、平成30年度の太平洋戦争期の研究を継続しつつ、平成31年度は研究範囲を太平洋戦争終戦および戦後の難民社会にまで広げる。 具体的にはユダヤ人難民が発行した新聞の記事を調査し、戦況の悪化への難民社会の対応や、終戦による急激な状況変化が難民社会に及ぼした影響を明らかにするとともに、当時の難民たちが書いたメモワールの記述をもとに個人の生活や経験も調査し、上海のユダヤ人難民の全体像を把握する。
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Research Products
(2 results)