2017 Fiscal Year Research-status Report
中国唐後半期の財政運営における宦官の権力拡大の研究
Project/Area Number |
17K03140
|
Research Institution | Sapporo University |
Principal Investigator |
高瀬 奈津子 札幌大学, 地域共創学群, 教授 (00382458)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 唐代宦官 / 宦官養子制 / 宦官家族 / 内諸司使 / 唐代石刻史料 / 唐宋変革期 |
Outline of Annual Research Achievements |
唐後半期において、宦官は皇帝の廃立に関与するなど政治の動向を左右するほどの権力を握った。こうした宦官の権力獲得の要因の一つが令外官である内諸司使である。本研究では、大盈庫使・瓊林庫使をはじめとする財政関連の内諸司使を考察した上で、財政運営への宦官の関与と権力拡大、皇帝権力との関係を検討する。 また、宦官が権勢を獲得し、それを維持できた要因として、宦官が養子を取って家系の存続が可能となったことにより、宦官身分の形成、宦官勢力の団結がなされたことも大きい。宦官養子制だけでなく、宦官家族内の女性を取り上げ、宦官の家系の維持、発展と彼らの勢力拡大に対する役割を考察する。 上記の2つの課題により、唐後半期の宦官の勢力拡大の背景を明らかにすることを通じて、最終的には唐宋変革期の皇帝権力の特色を明らかにすること目的としている。 上記の研究課題を行う為に、平成29年度では、まず以後の研究を進める基盤作りを行った。具体的には、新出の石刻史料の収集と整理、先行研究の整理を行い、石刻史料については、今後の研究でも利用できるよう、今後の目録化に備えて項目を立てて整理を進める。特に新出の墓誌銘の中には、宦官、その妻や娘のものだけでなく、養子となった一般男性のものも含めてかなりの数にのぼる。その整理の過程で、宦官の妻や娘など女性に関連する情報の収集が進み、宣宗期の有力宦官の妹とその宦官の娘の墓誌から、当時の有力宦官層における婚姻が果たす役割を考察した。さらに、中下層の宦官集団における婚姻についても調べることができた。これらの考察については、「唐代宦官家族における女性の役割に関する一試論」として論文化し、現時点での成果を発表することができた。 ただ、大盈庫使・瓊林庫使など財政関連の内諸司使に関する情報は収集を進めているものの、細分化された情報の整理と分析がまだ十分には行われていない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度では、まず以後の研究を進める基盤作りを行った。具体的には、新出の石刻史料の収集と整理、先行研究の整理を行い、石刻史料については、今後の研究でも利用できるよう、今後の目録化に備えて項目を立てて整理を始めた。特に新出の墓誌銘の中には、宦官、その妻や娘のものだけでなく、養子となった一般男性のものも含めてかなりの数にのぼる。石刻史料の収集と整理については、収集は順調に進んでいるものの、どうしても膨大な数量の史料収集が主となり、それを項目を立てて整理する作業のほうが十分には進んでいない。また、昨年夏に中国西安市の博物館数か所を訪問し、石刻史料の所蔵調査を行った際、未公刊の墓誌銘が相当あり、その中に宦官の墓誌も含まれることが分かった。近々図録が公刊されるとの情報もあるので、こうした史料の取り扱いについても検討する必要がある。 その収集の過程で、宦官の妻や娘など女性に関連する情報の収集が進み、宣宗期の有力宦官の妹とその宦官の娘それぞれの墓誌を調べ、当時の有力宦官層における婚姻が果たす役割を考察した。さらに、中下層の宦官集団における婚姻についても調べることができた。この考察については、「唐代宦官家族における女性の役割に関する一試論」として論文化し、現時点での成果を発表することができた。宦官の家系の発展と彼らの勢力拡大の背景を明らかにするという課題については、当初の計画以上に進んでいる。 他方で、大盈庫使・瓊林庫使など財政関連の内諸司使に関する情報は収集を進めているものの、細分化された情報の分析がまだ十分にできていないため、こちらの課題に関する成果が未だにまとまらないでいる。 以上から、全体的に見ると当初の計画よりもやや遅れていると評価せざるを得ない。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に引き続き、唐代宦官の墓誌銘を中心とする石刻史料の収集と整理をする。これまでは収集に比べて整理のほうが遅れているために、平成30年度は整理にも力を入れて、31年度の目録化して公表できるように準備をする。 次に、平成29年度に順調に進んだ、宦官養子制と宦官家族内の女性の役割に関する研究は、平成30年度も引き続き墓誌銘を中心に分析を加え、その成果を研究会等で発表したり、個別論文化して順次公表する。平成29年度に先行研究の整理を行った際、宦官の家系の発展や宦官身分の形成、勢力の団結に関する研究は、宦官の職制に関する研究に比べて論考も多くないので、本研究が学術研究に貢献できる面も少なくないと思われる。 さらに、平成29年度では遅れがちであった大盈庫使・瓊林庫使など財政関連の内諸司使に関する研究は、職務内容や遷官の動向に関する情報が細分化され、その整理と分析に時間がかかっているが、こちらも分析の方法を工夫することで、成果を公表できるようにしたい。平成30年度に大盈庫使・瓊林庫使など財政関連の使職に就任した宦官の遷官の動向を検討し、論文化につなげる。
|
Causes of Carryover |
当該年度では、物品費は石刻史料の収集の為に図書資料の購入を優先して支出し、購入予定であったパソコンの購入は見合わせた。旅費は8月の中国西安市と北京市の博物館訪問と所蔵調査によるものである。複写費としてその他も計上していたが、これは大学の個人研究費より支出したため、1570円が未使用となった。これは翌年度分の物品費と合わせて支出する。 翌年度では、物品費は360,000円を請求しているが、これに当該年度未使用分の1570円を合わせて使用する予定である。石刻史料の収集と研究課題に関連する学術図書の購入を中心に支出したい。旅費は138,000円を請求しているが、中国の西安市か洛陽市の博物館訪問と所蔵調査の費用に充てる予定である。
|