2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K03146
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
石黒 ひさ子 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (30445861)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 墨書陶磁器 / 貿易陶磁 / 綱首 / 南海Ⅰ号 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は墨書陶磁器調査と研究発表を実施し、データベース作成に着手した。 《墨書陶磁器調査》2018年7月岩手県平泉町で志羅山遺跡出土墨書陶磁器の熟覧調査を行った。同8月、長崎県東彼杵町で白井川遺跡出土の「綱」字墨書陶磁器及び貿易陶磁の熟覧調査を実施した。同9月、中国北京・洛陽・西安を訪問し、洛陽唐宋洛陽城と白居易故居、・西安唐長安城西市・東市遺跡にて、近年出土した墨書陶磁器を熟覧調査した。同12月、福岡市にて発掘中の博多遺跡を見学し、墨書陶磁器の熟覧調査を実施した。同月、熊本市及び天草市において熊本市二本木遺跡出土「綱司」墨書陶磁器及び祇園遺跡、天草市内出土の墨書陶磁器の熟覧調査を実施した。2019年2月、香港、中国広東省を訪問し、香港中文大学資料館所蔵墨書陶磁器、韶関市南華寺蔵「広州綱首」銘五百羅漢像、広州市内遺跡出土の墨書陶磁器の熟覧調査を実施した。同3月、長崎県壱岐市で壱岐島出土の墨書陶磁器を熟覧調査した。 《研究発表》2018年6月に台湾玄奘大学で実施された南島史学会にて「墨書陶磁器からみた「綱」」の題目で報告を行った。本報告は2018年11月に『南島史学』において学術論文として刊行した。7月には東北大学で実施された「平泉研究会」及び第2回「経塚研究会」にて「広東省南華寺五百羅漢銘文―「広州綱首」をめぐってー」の題目で報告を行った。本報告は2019年3月に『岩手大学平泉センター年報』において学術論文として刊行した。 《データベース作成》2018年度には墨書陶磁器の出土報告のある中国広東省の沈没船「南海Ⅰ号」の報告書が刊行され、この内容を元に「南海Ⅰ号」墨書陶磁器データベースの作成に着手した。報告書が複数回刊行されているため、2019年度も継続して入力作業を実施している。完成後は明治大学日本古代学研究所HPにてデータを公開の予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は前年度に引き続き、墨書陶磁器の実地調査を積極的に行った。墨書陶磁器の調査は中国においては洛陽・西安と香港・広東、国内では岩手県平泉町、長崎県東彼杵町、熊本県熊本市・天草市、福岡県福岡市、長崎県壱岐市と広汎な地域にわたり実見調査を実施している。特に「綱」の事例については報告書未報告の熊本市二本木遺跡出土「綱司」墨書や、実見調査報告がこれまでに無かった香港中文大学資料館所蔵品に二点の「綱」字墨書陶磁器のあることを発見した。また、これまでほとんど注目されていなかった「広州綱首」銘五百羅漢像について、「綱」字墨書陶磁器との関連を指摘し、2018年度中に刊行した学術論文において問題提起を行った。中国調査においては、洛陽白居易故居出土の墨書陶磁器及び広州市南越王宮遺跡上層出土の北宋時期墨書陶磁器について、現地研究者と検討し、公表されている釈字に訂正が必要なことを確認した。 本年度希望していた中国山東省板橋鎮遺跡については現地状況が厳しく、調査が実施できなかったが、山東省では板橋鎮の他、青州市内からも多くの墨書陶磁器が発見されていることが確認できた。山東調査については2019年3月に来日した山東省文化財関係者と面会して交流を深め、2019年度に調査可能か模索中である。 実見調査による墨書陶磁器データは写真等の公開に制限があり、2017年にはデータベース作成には着手できなかった。しかし2018年度には「南海Ⅰ号」沈没船の報告書が刊行され、出水した墨書陶磁器のデータが公開されたため、データベースの作成が可能となった。報告書が複数にわたるため情報の整理に時間がかかっているが、2019年度の公開を目指してデータベースを作成中である。 以上の進捗状況から、予定通りに達成できなかった調査もあるが資料調査、研究発表等研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度は前々年度に引き続き墨書陶磁器の実見調査を進め、さらに中国の沈没船「南海Ⅰ号」の調査報告書が刊行されたことで、墨書陶磁器についての新たな知見を得た。これまで実見した墨書陶磁器は報告書未発表のため写真撮影が許可されない等、データベース作成のための資料としては困難が多かったが、「南海Ⅰ号」報告書には墨書陶磁器も多数報告され、データベース化への目処をつけることができた。既に資料集成を開始しており、本2019年度にはデータベースとして明治大学日本古代学研究所HP上で公開の他、研究成果資料集として冊子体によるデータ公開も実施したいと考えている。 墨書陶磁器実見調査では前年度より課題となっている山東省地域での調査及び報告書が刊行された「南海Ⅰ号」出水墨書陶磁器の調査を優先して実施したい。山東省では板橋鎮遺跡の他、青州博物館にも墨書陶磁器の所蔵があることが前年度に判明している。「南海Ⅰ号」については現地研究者と今後も連携を深め、現地での実見調査を実施する予定である。さらに前年度福岡で実施された研究会に参加した際には日本国内では現在発掘中の博多遺跡より複数の墨書陶磁器が出土しているという情報を得た。当該遺跡担当者との情報交換を継続し、調査を実施したい。韓国馬島地域でもすでに知られていた墨書陶磁器に加え、さらに新たな発見があったという報告が出ている。これらの情報収集にも努めるとともに、機会があれば実見調査を行いたい。 研究成果の発信としては上記データベースの公開に加え、国内外の学会における学術報告を予定している。墨書陶磁器の「綱」字への着目から、すでに広東省韶関市南華寺所蔵五百羅漢の「広州綱首」銘との関係を指摘しているが、本年度には文献史料上の「綱」及び「綱首」との関連も明確にしていきたい。また「広州綱首」のような木刻・石刻史料としての「綱首」についても用例を探索したいと考えている。
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Causes of Carryover |
2017年度より墨書土器データベース作成のため、資料実見等の調査を続けていたが、報告書未発表資料等が多く、データベースとしての公開には支障が生じていたため、作業が大きく進展していなかったため、データベース作成のための入力作業の予算額に余剰が生じた。さらに2018年度中にデータベース作成に活用可能な「南海Ⅰ号」沈没船発掘報告が刊行され、報告書入手後にデータ作成アルバイトの入力作業を本格的に実施することになった。報告された墨書陶磁器数が予想より多かったため、人件費費用を充分に確保するため、その他の消耗品等の購入を一時見送った。アルバイト作業については、入力作業に時間がかかったため年度内予定が遅れ、一部を2019年度に実施することになった。以上の状況から次年度使用額が生じることとなった。 2019年度には「南海Ⅰ号」墨書陶磁器データベース作成のための入力が継続するため、その入力のための人件費として使用する。また定額以下の書籍を含む消耗品についても早急に購入を進めて、研究に供する予定である。
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Research Products
(6 results)