2018 Fiscal Year Research-status Report
ロシア統治下チベット仏教徒のチベット・モンゴルとの交流の研究
Project/Area Number |
17K03148
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石濱 裕美子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (30221758)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳澤 明 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50220182)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ドルジエフ / ブリヤート / ダライラマ13世 / カンドードルジェ / クルルク貝子 / チベット仏教世界 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者石濱裕美子は、2017年度に解読したロシア語資料にもとづき本年は三本の研究論文と英文の書籍を発表した。
一本目の「ダライラマ13世によるモンゴル仏教界の綱紀粛正とその意義について」においては、ダライラマ13世はハルハ・モンゴルや青海・モンゴルの綱紀が弛緩していたことに怒り、これらの地において戒律の復興をとき、現地の高僧との対立も許さない厳しい行動をとっており、寺の規則を描き下ろしてモンゴル、ブリヤートの僧院に授けていたことを明らかにした。 二本目の論文「ロシア科学アカデミー公文書館所蔵チベット文三書簡の歴史的意義」においては、ダライラマ13世のブリヤート人側近ドルジエフの2つの書簡に基づき、ロシア領内のカルムック人貴族がダライラマ13世のために行動していたこと、チベットが独立した1913年にドルジエフはイギリスへわたっていたことを明らかにした。 また三本目の「20世紀初頭、チベットとモンゴルを結んだ二モンゴル王公──カンドー親王とクルルク貝子──」においては、1904年11月にモンゴルに到着したダライラマ13世の下にロシア領内のブリヤート人仏教徒は大量に巡礼としておしよせ、ブリヤートの有力部族の長であるディリコフはハルハのカンドードルジェ(初代外務大臣ハンダドルジ)、青海のクルルク貝子などと協力しダライラマ13世の宮廷と連絡を保ち、ダライラマ13世を清朝宮廷の圧力から守っていたことを明らかにした。 また、協力研究者の柳澤明とともに、ロシアのブリヤート共和国キャフタの郷土博物館で開催されたシンポジウムに参加し、柳澤明はロシア語で、石濱は英語で上述の成果を発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
井上岳彦氏がロシア科学アカデミーに所蔵されていた1905年と1913年のドルジエフのチベット語書簡を発見し氏とともにこの書簡を解析することを通じて、ロシア人仏教徒とダライラマ13世の宮廷のつながりが明確となった。
また、初年度に購読したРоссия и Тибет : сборник русских архивных документов 1900-1914.などのロシア語資料や研究書において知り得たチベットとの関係を積極的に構築しようとしていたブリヤート人たちの名前によって、チベット語で記されたダライラマ13世伝やダライラマ13世の著作を見直した結果、青海ホショトにおいてはクルルク貝子、ハルハ・モンゴルにおいてはカンドードルジェ、ブリヤートにおいてはディリコフがダライラマ宮廷と積極的な関係をもち、ダライラマ13世がモンゴルを離れて青海や五台山や北京に滞在していた時期においても相互に連絡をしていた。
このように新出資料にめぐまれ、さらに今まで対照されることのなかったロシア語資料とチベット語資料を参照したことにより、当初予想していたよりかなり具体的な経緯を明らかにすることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年7月7日から13日までの間に、パリのinalcoで行われる国際チベット学会(International Association of Tibetan Studies)において、研究代表者はan-Mongolian Relations in the Modern World という名前のパネルを組織し、そこにブリヤートを代表する研究者Tsyrempilov, Nikolay教授、Kitinov, BaatrU教授(モスクワ)、また、モスクワ大学のKuzmin, S.L. 教授、内モンゴルからはHamugetu博士、また、カルムック研究者の井上岳彦博士、近代モンゴル研究の代表的な研究者橘誠教授などを招いて発表していただく。 このようにロシアとモンゴルの仏教徒の活動に詳しい専門家を一堂に会し、相互に交流することを通じて、ロシアと清朝によって分断されていた研究を統合することを試みる。
このパネルの発表内容を受けてパネラーから提出された原稿は本科研費の報告書として提出する予定である。
|
Causes of Carryover |
キャフタでのシンポジウムにおいて、日本モンゴル学会会長二木博史名誉教授、現時点ではウランウデの社会科学院に所蔵されている資料の閲覧は難しいとの情報をえたため、長期滞在していの資料閲覧を行わなかったため。また、資料の購入費についても関係各位から無料で寄贈されるなどして購入費がかからなかったため。
|