2017 Fiscal Year Research-status Report
Tamain and History: 'Local History' by Pre-modern Societies in the Ayeyarwady River Basin
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17K03150
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
伊東 利勝 愛知大学, 文学部, 教授 (60148228)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 19世紀以前 / 縁起 / 貝葉 / 目録作成 |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀以前に編纂され,現在利用可能な地方の縁起(ヤーザウィン・タマイン)について,その場所,成立年あるいは写本作成年,編・著者名,内容の異同によって整理し,この目録作成を目指した。これらの多くは刊本ではなく,貝葉の形で作成されたこともあり,未整理・未発見のものもいまだ存在するはずであり,これらの発掘にも鋭意つとめた。 まず大英図書館,アジア・アフリカ室にて,当館所蔵の古文書目録を手掛かりに,その所蔵調査をおこなった。その結果,いまだ古文書目録にふくまれていない貝葉文書も含めて,バガン,インワおよびモンについてのヤーザウィンが存在すること,およびヤカイン地方に関する3種の写本が存在することが判明した。その他地方の縁起については,所蔵を確認できなかった。 次いで,ミャンマーにある図書館・文書館での調査をおこなった。ヤンゴン大学中央図書館では電子化されたカタログにより,地方の縁起に関する貝葉文書を数点確認した。また国立図書館については,現在組織や施設の整理再編中で,所蔵・閲覧施設がヤンゴンとネーピードーに存在するが,後者については関係の貝葉書は,所蔵されていないことが判明した。前者については,いまだ未整理で,包括的な所蔵調査は困難とのことで,サリン,ペグー,タウンドゥインヂーに関する縁起の存在を知りえたのみであった。 またモンユワ市および,2018年度にマンダレー大学図書館に統合予定のマンダレー市の両ミャンマー古文書史料センターには,地方に関する縁起文書は所蔵されていないことを確認した。ただシュエボー大学歴史学部では,貝葉本ミエドゥー・ヤーザウインのタイプ書き起こし版を入手できた。メイッティーラー大学図書館には,縁起関係では「ラーザーディリ王御事跡」が存在するのみで,マンダレー大学中央図書館には地方縁起に関するものはないことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
地方に関する縁起の目録を作成する段階で,原語での電子入力について,現在2種類存在するUnicode入力方式のいずれを採用するかで結論がえられていない。マイクロソフト版とMyamar3版の普及度を確認する必要があるが,研究機関や研究者間での利用状況が詳らかでない。加えて,民間やwebでもっともよく使用されている非UnicodeのZawgyi-oneフォントもある。現地での動向も含め,入力方式の決定は完成した電子化目録の汎用性や検索等の利便性を考えると,慎重にならざるを得ない。2018年の8月までには結論を出し,目録の電子化をおこなう予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は,前年度におこなった,各種縁起貝葉本の所在確認とデジタル化,および目録作成を続行する。またタウンドゥインヂー地方に関する縁起の異本整理が前年度内に完成しなかったので,引き続きこの作業を遂行する。その後,「ミンヤーザ書」(1775年)や「ラカプーラ年代記」(1787年)など4つのヤカイン「地方史」について,その編年やプロット,モチーフを比較することにより,そこに一貫した作成意図が存在するのか否かの調査をおこなう。と同時に,ムラウー王国時代におけるエーヤーワディー流域本土の政権との抗争について,これら4縁起間の記述内容,及び本土の政権下で成立した縁起(年代記)類のそれと,それぞれ如何なる関係にあるのかを明らかにする。 また目録補充のため,ミャンマー主要図書館や研究所での調査,およびインド・コルカタのベンガル・アジア協会図書館もその対象に加える。 次いで平成31年度は,モン(タライン)年代記に関する貝葉写本の相互比較により,それぞれの編・著者や成立年およびその経緯を調べる。それに15世紀末にモン語で書かれた「ラーザーディリ王御事跡」も加え,内容の異同や表現方法の違いを確認する。またモンの故地とされるタトン地方の年代記や,中央政府が編纂した縁起(年代記)の内容との比較もおこない,「モン縁起」というカテゴリーが生まれた経緯を,植民地支配下におこなわれた「民族」政策との関係も含めて検討する。 以上の3年間の調査結果を総合し,前近代に地方で成立した縁起によって,後代の歴史を照射することにより,縁起が民族をアクターとするナショナルヒストリーに組み変えられ,地方史あるいはエスニックグループの歴史として,取り込まれ読みかえられていく過程を明らかにし,これを成果として発表する。
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Causes of Carryover |
大英図書館やミャンマーの図書館・文書館には関係史料がそれほど保存されていないことが判明したことと,技術的問題により電子化による目録作成が遅れたため,予定していた複写費や人件費が未執行となった。平成30年度に,インド・コルカタのベンガル・アジア協会図書館の調査およびタトンのマハーダンマゼディー寺閣の経蔵庫の調査をおこない,目録を完成させ,タウンドゥインヂー地方に関する縁起の異本整理を遂行する。 あわせて,「ミンヤーザ書」(1775年)や「ラカプーラ年代記」(1787年)など4つのヤカイン「地方史」について,その編年やプロット,モチーフを比較することにより,そこに一貫した作成意図が存在するのか否かの調査をおこなう。と同時に,ムラウー王国時代におけるエーヤーワディー流域本土の政権との抗争について,これら4縁起間の記述内容,及び本土の政権下で成立した縁起(年代記)類のそれと,それぞれ如何なる関係にあるのかを明らかにする。
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Research Products
(2 results)