2018 Fiscal Year Research-status Report
Tamain and History: 'Local History' by Pre-modern Societies in the Ayeyarwady River Basin
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17K03150
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
伊東 利勝 愛知大学, 文学部, 教授 (60148228)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 縁起 / 歴史 / 民族 / センサス / ミエドゥー城市 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず「ラカイン略年代記」「ラカイン御武勲記」などの主要な貝葉本10点のデジタル化をおこない,将来Web上で公開できるよう準備を整えた。次いでこれら貝葉本に「ラカプーラ年代記」などを加えた12件のラカイン縁起文書について,その編年やプロット,モチーフを比較することにより,相互の関係を検討し,「ミンヤーザ書」(1775年)以外のヤカイン史に関する貝葉本それぞれが成立したおおまかな年代を確定したところ,これらは1784年のコンバウン王国によるヤカイン併合の後,ビルマで編纂されたものであることが判明した。 と同時に,この過程で,従来一連のヤカイン史貝葉本は,Do Weiが編纂したものを底本にしているという理解は,原本の奥付にyazawingyi tho ga mayama amatmyo saphet do go pyan ze diとあったのを写本作成の過程で,yazawingyi tho ga mayama amatmyo saphet do we di と誤記されたことにより生じたものであり,もともとDo Weiなる編纂者は存在しないことを明らかにした。 また縁起が歴史に変質する過程で,これと並行して進行していた民族(人種)の生成につて,コンバウン時代における人種区分とその意味が,植民地時代および独立時代に受け継がれなかったこと,およびその区分も年代によってさまざまであったことを,近代におけるセンサスのなかで用いられた民族区分を年次ごとに比較することによって指摘した。こうして民族区分は,近代になって住民支配のために作りあげられたものであり,これを補強するために近代の歴史が創造されていく背景を明らかにした。 さらに,縁起理解の補足として,前年度に入手したミエドゥー城市縁起の成立過程を,旧ミエドゥー城市のカラビョーやシュエボー市近郊のムスリム村の歴史を通して検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
エーヤーワディー流域に残された地方にかかわる縁起の目録をデータベース化するさいに,原語での電子版作成は不可欠であるが,現在数種類存在するUnicode入力方式のうちミャンマーでより普及度の高いMyamar3版を採用することにしたが,迂闊にもこれがMS社のOffice 2013以降では作動しないことが判明した。使用可能なOffice 2007はサポートが打ち切られ,Office 2010についても近々インターネット上での利用が不可能となる。 Myanmar 3の汎用性について,先行きが不透明な状況にあることが明らかになった。ミャンマーでは現在でもOffice 2007および2010の利用が主流であり,これがいつOffice 2013以降に切り替わるか不明である。そのため,タウンドゥインヂー地方に関する縁起をはじめ,その他地方の縁起の整理が滞っている。 またコルカタのベンガル・アジア協会図書館に所蔵されているというビルマ語貝葉本が,未整理のため請求番号等の事前確認がとれておらず,現地調査をおこなうにいたっていない。またムラウー市とタトーン市で,ヤカイン史関係貝葉本の存在を確認したが,その内容を所蔵者の都合で点検できなかった。これを無視して現在利用可能なテキストのみで分析を進めるか否か検討中である。 またミャンマー側で調査の支援を受けていたヤンゴン大学歴史学部のゾー・リン・アウン講師が10月にシットウェー大学の歴史学部に異動されたため,ヤンゴンにおいてこれまでのような便宜を受けられなくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
各種縁起貝葉本の所在確認とデジタル化,およびそれらの刊本もあわせての目録作成を続行する。またタウンドゥインヂー地方に関する縁起の異本整理がいまだ完成していないので,引き続きこの作業を遂行する。これと平行して,前年度収集・整理したヤカインの縁起が本土コンバウン王国政権下で成立した年代記類により,いかなる政治的影響を受けているのかを明らかにする。 次いで,「モン(タライン)縁起」の検討に移り,関係貝葉写本の収集と相互比較により,それぞれの編・著者や成立年およびその系統を調べる。あわせて,これらと15世紀末にモン語で書かれた「ラーザーディリ王御事跡」との比較をとおして,内容の異同や表現方法の違いを確認する。さらに,タトーンはモンの故地とされているが,こうした地方の縁起が「モン縁起」と如何なる関係にあるか,その異同を精査し,それぞれの編纂意図を明らかにしていく。これらが同じ神話や歴史上の事績を扱い,いわゆる「モン人の歴史」が描かれているのか,それともそこにはタトーン・タラインやシャン・タラインなどの差異化がなされているのかを点検し,「モン縁起」というカテゴリーが生まれた経緯を,植民地支配との関係も含めて検討する。 これら地方縁起目録の補充,ヤカインやモン関係の史料収集のため,ミャンマー主要図書館や研究所,それに地方文書館,およびインド・コルカタのベンガル・アジア協会図書館での史料調査をおこなう。 以上により,これまでの3年間にわたる調査結果を総合し,前近代にエーヤーワディー流域地方で成立した縁起によって,後代の修史を照射することにより,縁起が民族をアクターとするナショナルヒストリーに組み変えられ,地方史あるいはエスニックグループの歴史として,取り込まれ読みかえられていく過程を明らかにし,これを成果として発表する。
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Causes of Carryover |
技術的問題により電子化による目録作成が遅れたため,予定していた文書撮影デジタル化費や人件費が未執行となった。また予定していたインド・コルカタのベンガル・アジア協会図書館の調査が本館の資料整理状況により敢行できなかった,さらにムラウー市のヤカイン縁起関係貝葉本およびタトーンのマハーダンマゼディー寺閣の経蔵庫の調査が,閲覧に関する調整がつかず,これを断念した。 目録のデータベース化については,ミャンマーにおけるMS社Officeの使用について,今後の動向を見定め,2019年の8月までには,Myanmar 3を使用するか,別のソフトを利用するかの結論を出し,目録の電子化をおこなう。 インド・コルカタのベンガル・アジア協会図書館には事前に直接問い合わせ,所蔵貝葉本の調査をおこなう。またタトーン地方の縁起調査や,この地の経蔵およびムラウー市の郷土史家のもとに保存されているというヤカイン縁起についての調査について,ゾー・リン・アウン氏と相談のうえ,研究体制を立て直して進めていく。
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Research Products
(2 results)