2019 Fiscal Year Research-status Report
Tamain and History: 'Local History' by Pre-modern Societies in the Ayeyarwady River Basin
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17K03150
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
伊東 利勝 愛知大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (60148228)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 縁起貝葉本 / データベース化 / [モン]年代記 / ジャータカ様式 / ダンマゼーディー王 / 大年代記 |
Outline of Annual Research Achievements |
コンバウン王国時代以前に作成されたミョウ(城市)やユワー(村)の各種縁起を記した貝葉本の所在確認とそれらの目録を作成し,これをユニコードのMyanmar Textを使ってデータベース化した。現在のところ刊本もあわせて220件が終了し,異本,類書などがWindows上で検索できるようになった。またこれまで,旧MS_DOSで作成していた,縁起内容の検討に不可欠の地方文書をMyanmar Text化し,地名,人名,官職名などの横断検索を可能にした。 次いで,ケンブリッジ大学に所蔵されている,タニンダーイー地方にかかわるミョウの縁起や「モン」の年代記を調査した結果,これらはこの地方がコンバン王国支配下にはいって成立したものが,植民地官吏の意向によって1830年代に収集され,筆写されたものであることが判明した。 またミャンマーの国立図書館や大学中央図書館に所蔵されている『モン年代記 Mun Yazawin』やこれと関連するミョウに関する縁起の内容をU Tun Aung Chainの英訳もあわせて検討した結果,本年代記は遅くとも17世紀はじめに成立したもので,作者が僧侶ということもあるが王権を正統化するための王統記というより,王の事績を題材にして仏教の無常観を説明するために作成された,つまりジャータカ様式によるものであることが判明した。 あわせて16世紀後半,エーヤーワディー流域地方における南伝上座部仏教的政治体制が成立する道を開いたハムサワティー国のダンマゼーディー王と,これを支えたシンソーブ女王についての記述を,本年代記と,18世紀はじめウー・カラーによって書かれ,「ビルマ」年代記の基礎となった『大年代記Maha Yazawingyi』と比較した。その結果,後者はビルマの王統史ということもあるが,この両王の事績についてほとんど記述がないことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
懸案であったビルマ文字のユニコード入力問題を解決し,ミョウやユワーに関する各種縁起貝葉本の所在調査とそのデータベース化はほぼ完了した。 ラカイン縁起については,主要な貝葉本10点のデジタル化をおこない,将来Web上で上記データベースとともに公開できるよう準備を整えた。これら貝葉本に「ラカプーラ年代記」などを加えた12件のラカイン縁起文書について,その編年やプロット,モチーフを比較することにより,相互の関係を検討し,「ミンヤーザ書」(1775年)以外のラカイン史に関する貝葉本それぞれが成立したおおまかな年代を確定し,その多くがコンバウン王国によるラカイン併合の後,ビルマで編纂されたものであることに加え,従来一連のラカイン史貝葉本は,Do Weiが編纂したものを底本にしているという理解であったが,これらの相互比較により,Do Weiなる編纂者は存在しないことを明らかにした。 「モン」年代記については,写本を検討した現在までの段階では,いわゆる民族色がなく,また王統史という形態をとっていなかったことにより,そもそも「モン族」のための年代記という観念がなかったことが判明している。これは「モン」に関連するミョウの縁起内容も同様である。 また,現在ミャンマーの歴史学界において,ハムサワティー国をはじめとする「モン」の研究者が皆無であることからも明らかなように,「ビルマ人の歴史」一辺倒という状況になっている。ラカイン史についてこうした傾向はいまだ確認していないが,民族中心の歴史叙述は,植民地支配者の手によってはじめられ,これに地方の年代記やタマインがすべて吸収されていく様が明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在地方都市となっているタウンドゥインヂー・ミョウの縁起に関する異本を,現地調査により発掘・整理し,それぞれの成立年,編年の方法やプロット,その土地や住民を他と差異化する際に使用する言葉を吟味する。そして,前近代における中央と地方の相互認識,とりわけ中央がこれら地名とも住民名ともとれる識別名称を如何なる意味で使用していたのか,また地方における縁起の作成が如何なる意識の反映であったのかについて明らかしていく。 また引き続きラカイン年代記関係については,現在その所在が確認されている貝葉本の現地調査をおこなう。そしてコンバウン王国に服属する前と後で書かれた年代記,および植民地下で成立した年代記の作成意図に注目し,縁起(年代記)が成立するについて,それは仏教的意図によるものなのか,それとも王権強化という政治的意図があったのか解明していく。 さらに「モン」年代記については,とりわけ大英図書館に所蔵されている,19世紀前半に成立したAthwa僧正の手になる「Talaing History of Pegu」の内容と,これまで考察してきた『モン年代記』が如何なる関係にあるのかを検討し,「モン」年代記が王統史とは異なる意図で作成されたかどうかを確定する。 以上により,これまでの調査結果を総合し,前近代にエーヤーワディー流域地方で成立した縁起によって,後代の修史を照射することにより,縁起が民族をアクターとするナショナルヒストリーに組み変えられ,地方史あるいはエスニックグループの歴史として,取り込まれ読みかえられていく過程を,それぞれタウンドゥインヂー,ラカイン,「モン」について明らかにし,これを成果として発表する。また各種縁起貝葉本および地方文書のデータベースは,Web上での公開を目指す。
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Causes of Carryover |
本研究の初年度および次年度は,機関長を務めた愛知大学人文社会学研究所でのシンポジウム開催・報告書作成活動が多忙を極めた。またインド・コルカタのベンガル・アジア協会図書館への所蔵文書照会に多くの時間を取られ,ラカイン年代記関係の分析作業が停滞した。またビルマ文字のユニコード入力について,本国仕様との調整に手間取ってしまった。 さらに個々の年代記写本が浩瀚でありかつ誤記も多く,解読に予想以上に時間がかかっている。そして史料調査についても,新たな関係写本の存在が確認され,その閲覧について,特にラカイン年代記関係ついてミャンマー国のムラウー市とタトーン市に関係貝葉本の存在,またモン年代記関係で,イギリスの大英図書館所蔵の文書がそれぞれ存在することを確認していたが,反政府活動の激化や新型コロナウイルス蔓延等により,現地調査が不可能となった。 次年度にはこれら2国の現地調査を実施し,関連史料の収集につとめ,あわせてデータベースのさらなる充実をはかる予定であるが,もし渡航が不可能な場合は,関係機関に原本のデジタル化を可能なかぎり依頼する。
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Research Products
(1 results)