2018 Fiscal Year Research-status Report
日韓両国における朝鮮人特攻隊員の受容と記憶に関する比較研究
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17K03152
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
権 学俊 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (20381650)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 朝鮮人特攻隊員 / 植民地朝鮮 / 航空政策 / 特攻死 / 映画 ホタル |
Outline of Annual Research Achievements |
今年は1940年代航空熱を助長するための植民地朝鮮における航空政策、学校における航空教育の実態、朝鮮の雑誌と新聞に頻繁に登場した飛行機と操縦士に関する言説等を分析した。朝鮮総督府は軍事動員を展開するにあたり、朝鮮人青少年達の「空に対する憧れ」も積極的に利用した。1920~30年代は世界の航空技術が飛躍的発展を遂げ、若者は飛行機に対して強い憧れを抱いていた。こうした航空熱の高まりの中、1940年代に入り戦局が進むと、朝鮮総督府は軍官民合同団体である「朝鮮国防航空団」を設立する。そして、操縦士に最も適した「若年層」を動員すべく、国民学校における飛行機等の模型製作を教程化すると共に、大々的な航空イベントを開催し、朝鮮の子ども達の空に対する憧れをさらに刺激した。さらに、1940年以降、9月28日を「航空記念日」として制定し、空港関連の様々なイベントを大々的に展開する。航空記念日では、少年飛行兵たちの大々的な「郷土訪問」が実施され、戦争動員のためのイベントを学校・地域が体験する事となった。航空戦力の飛躍的増強という趣旨の下、「青少年航空訓練実施要項」が発表され、青少年の航空訓練を積極的に強化・実施するようになった。朝鮮総督府が行ったこれらの政策を積極的に支持すべく、この時期の朝鮮の雑誌や新聞には、頻繁に「飛行機」や「操縦士」に関する言説が登場している。特攻作戦が事実上終結する1945年7月まで、新聞上は『毎日新報』に特集された印在雄ら朝鮮人特攻隊員8名の報道で溢れ返り、彼らの「死」は、朝鮮総督府の主導により新聞のみならず、ラジオ・雑誌・文学作品・映画等あらゆる分野で、軍部関係者、親族や教員、地元の名士らまでをも巻き込んで「半島の神鷲」と祭り上げられた。また、解放後、韓国における映画『ホタル』上映と韓国人の意識について分析することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は主に植民地朝鮮における航空政策と朝鮮人特攻隊員に関する言説、韓国における朝鮮人特攻隊員に対するイメージが戦前から現在までどのような変容を遂げたのかを考察・分析した。また、彼らが韓国社会の政治・文化的脈絡の中でどのように位置付けられ、受け止められてきたのかを、戦前の特攻隊員関連の報道、韓国で上映された映画『ホタル』や、卓庚鉉の慰霊碑建立を巡る事件等を中心に検討した。平成30年度はいまだその存在すら明らかになってない台湾やインドネシア等の特攻隊員調査ができなかったものの、研究成果を韓国学会や日・中・韓国際学術大会にて報告する等おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
日本による朝鮮人特攻隊員の動員は、土地・米穀・労働力に次いで若者の命までも取り立てる、植民地支配の矛盾を最も如実に表出する制度であった。結果的に彼らは死をもって「天皇の臣民」である事を証明するよう迫られ、命の代価として「日本人よりも日本人らしく戦った」という歴史的な重荷を背負わされたまま、今日まで靖国神社の「軍神」として祀られている。朝鮮人特攻隊員に関する問題を探ると、日韓両国の社会がそれぞれ抱えている政治的、文化的両面の問題・制約によって、お互いが歴史を正視できていない現状が浮き彫りとなってくる。こうした両国の課題を置き去りにして、朝鮮人特攻隊員問題を既存の皮相的理解・感情論で済ませていては、戦死した人々は無条件に親日派と見なされ、生き残った人々は韓国戦争の英雄として記憶される、彼らの居場所が見つからないのは、日韓両国が植民地支配に対する正しい理解と清算を行っていないからなのではないであろうか。こうした問題意識から2019年度は、以下を中心として研究を進めていきたい。(1) 戦後日本と韓国社会の比較対比である。日韓両国における記憶のずれを浮き彫りにする。日韓間の比較を行い、朝鮮人特攻隊員が創出・消費される力学の相違やその背景を歴史社会学的に検証する。日韓比較を通して、戦後日本における記憶の構築過程を相対化し、アジア地域のなかでの位置づけを浮き彫りにする。また、(2)台湾・インドネシア特攻隊員の存在も明らかにしたい。旧植民地・占領地(旧外地)であった台湾やインドネシア等の特攻隊員にまで「足のばし」して、調査・データ化する。(3) ドイツをはじめとする欧米社会の戦争観についても資料調査・現地調査を行う。
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Causes of Carryover |
本研究課題は「戦争」と「同化」と「国家暴力」が折り重なるように押しつけられた朝鮮人特攻隊員を綿密な資料検討に基づいて歴史社会的に究明する国際的な学際的アプローチを試みており、日韓両国における特攻隊員の存在のみならず、旧植民地・占領地(旧外地)であった台湾・インドネシアの特攻隊員についても調査・データ化することを目指している。しかし、2018年度は植民地朝鮮と解放後韓国における朝鮮人特攻隊員の存在の分析に集中したため資料調査・収集を行うことができなかった。そのため、2019年度は台湾・インドネシアの日本の政策と特攻隊員に関する資料収集をはじめ、ドイツ等の戦争観・戦後処理問題等について現地調査を行う。
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Research Products
(4 results)