2018 Fiscal Year Research-status Report
Statements and communication in 12th century Ayyubids on the use of letter documents
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17K03157
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
柳谷 あゆみ 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (90450220)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アイユーブ朝 / 書簡 / カーディー・アルファーディル / イマード・アッディーン・アルイスファハーニー / 中世イスラーム史 / 知的交流 / 書式 / アラビア語文化圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、エジプトとロンドンでアイユーブ朝期史料の収集を進めた。ロンドンの調査では、写本・刊本の複写を進めるとともに、先行研究で所蔵が指摘されていた一次資料が「少なくとも同資料上で指摘された所蔵場所にはない」という不在の確認も行った。 同時に、収集資料の読解を進め、主としてイフワーニーヤ(スルターンの代筆ではなく、書記が自身の文責において書く書簡。あて先はスルターン、カリフ以外のあらゆる階層に及ぶ)の内容分析を行った。 カーディー・アルカーディルの現存書簡で、最も数が多いのは同僚にあたる書記のイマード・アッディーン・アルイスファハーニーあて書簡である。イマードからの返信も少数ながら現存しているため、往復書簡の分析を通して、①イフヤーニーヤにおいても相手の職位に応じた書式が存在すること②マグリブとマシュリクで書式に差があること③カーディー・アルファーディルが職位上イマードの上位にあること④書簡による交流が、当初予定を超えたハイペースで行われていることの4点を見出した。この分析では書記からアミールに対しての書式、書記から様々な知識人層に対する書式の相違についても内容を確認した。これらの点は人称の使用にかかわる問題でもあるため、書簡の読解においても基本的な前提知識を得るものとなった。 ②③④については、先行研究にはない発見であるため、慎重に内容の確認を進めてきた。そのため、論文とする作業は現在進めているところであるが、国際学会(WOCMES, 日独マムルーク会議)にて上記内容について報告(英語)を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中世アラブ知識人の知的交流において、書簡の書式から当事者の社会的な関係性を読み取る具体的な情報を得たのは大きな成果であった。また書式の解明は、書簡の読解における重要な手掛かりを得るものであり、以後の作業の進展にも資するところが大きい。国外への成果の発信も30年度には力を入れて行った。 他方で、書式の解明に慎重を期したため、論文の作成がやや遅れているので、おおむね順調と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
書簡の書式については、これまでの成果により地域差・時代差が歴然と存在することが明らかになった。この差異を具体的に把握するために、小規模でも内容の濃い研究会の開催を検討している。まずは国内研究者で情報の共有を図る。 また成果の発信については、アイユーブ朝期資料研究をもとに、英文での発表準備を進めている。 史料収集は順調に進んでいるが、現存が確認される資料を中心に、絶版資料の複写も含め、一次資料収集を引き続き行なっていく。
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Research Products
(2 results)