2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K03161
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
浅野 明 山形大学, 人文社会科学部, 名誉教授 (90133909)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ロシア史 / 17世紀 / 戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は「16-17世紀ロシアの軍制改革と社会統合」である。昨年度は研究初年度であったが,すでに収集していた史料・研究文献をもとに直ちに検討に取り組んだ。具体的には,かつて研究したスモレンスク戦争(1632-34年)について,以前には考察できなかった新しい視角から再検討を加えた。その理由は,1)17世紀のロシアについては,初頭の動乱時代(1604-13年)もしくは農奴制と専制政治が確立する後半期(1645年以降)に研究が集中しており,その間の時代とりわけ1620-40年代の研究がはなはだしく手薄であること,2)国制史研究が,わが国の前近代ロシア史研究においてはほとんど自覚的に追求されておらず,また3)その実態を現実面から明らかにするために不可欠である政治史研究も不十分であることなどの理由による。 昨年度は,ポーランドとの戦争という,いわば国家的な危機のなかで,成立間もないミハイル・ロマノフの政府が,動乱時代以来の社会的危機と政権の脆弱性という深刻な課題を,どのようにして克服していったのかという問題を検討した。その成果が論文「17世紀前半期ロシアの国家・社会・戦争―スモレンスク戦争(1632-34)再考―」『山形大学歴史・地理・人類学論集』第19号(2028年3月)1-22頁である。ここでは,1)1630年代にも政府の基盤は脆弱であったこと,2)当時,社会的に影響力を持っていたのはカザーク(コサック)の一団であったこと,3)スモレンスク戦争の過程でこの集団が解体され,その結果として,4)ミハイル政府の権力と権威の強化が促され,のちのツァリーズム成立の条件が生まれたことなどが明らかにされた。 以上とは別の研究活動として,外国文学研究者との定期的な交流を昨年度も継続して行った。交流会は,原則として隔月に開催されており,歴史と社会の接点を探る上で有益な示唆を与えられている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究が比較的順調に進捗していると判断できる大きな理由は,上述したように,すでに昨年度(平成29年度)に研究成果が公刊されていることである。それが可能となったのは,設定されている研究課題について,以前すでに基礎的な研究を行っており,その際に関連する主要な史料と文献を入手していたからである。これらの有利な条件は,今年度にも適用できる。今後展開する予定の研究課題についても,すでに比較的多数の文献と史料(資料)を準備しているからである。また,研究拠点を,山形から東京に移したことも,研究が進展する一つの理由となっている。未入手の史料や文献が,比較的容易に入手できる環境となったからである。さらに研究成果を発表する場についていえば,かつての勤務校で定期的に発行している雑誌(査読あり)に投稿する権利を有しているため,研究を発表する場に困難を感じることがなく,しかも脱稿後すみやかに公刊されるという点がたいへん大きな利点である。昨年度(平成29年度)の例でいえば,本年(平成30年)1月に脱稿した原稿が3月には公刊されている。 以上の研究条件からわかるように,予期しない事由によって研究活動が停滞する可能性は極めて低いといえる。万一,新たな研究文献などの入手が困難な状況になっても,すでに確保している資料等によって,さらなる研究の進展が可能だからである。 また,これまでも研究代表者の研究上の特徴としてきた文学者との交流も,順調に行なわれている。今年度は,6月に,農奴制下ロシアの文学作品について,研究代表者が報告する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,昨年度の研究成果をふまえ,1630年代のロシアの3つの局面について研究したい。まず,1)西欧とりわけポーランドやスウェーデンと戦うために,1620年代以降に行われた軍制改革の内容と意義について明らかにするとともに,これが1630年代以降,ツァーリの権力の確立=社会の統合にどのように有効にはたらいたか考察する。次に,2)同じく1630年代の国制史,具体的にはいわゆる「全国会議」の果たした役割について考察する。この時期の全国会議について,わが国ではほとんど研究されていないが,その具体的な活動や審議事項について検討すれば,社会の再統合に果たした「会議」の重要な意義について明らかになるであろう。そしてさらに,3)「会議」の活動と平行して進んだ官僚機構の整備について検討する。その場合,官僚機構における貴族・士族の位置づけが重要な問題となろう。これらの検討を通して,軍制改革と一連の全国会議の活動および官僚機構の整備が,いわば三位一体となって政府の権力確立=社会の再統合に貢献したことが明らかになろう。 ロシアの政治といえば,ツァーリの専制政治というイメージで理解される傾向が強いが,統治にあたって実際の権力を握っていたのは名門貴族であったし,その主導権のもとで統治の実務を担っていたのは,士族や小士族の中級勤務人層であった。また,1630年代まで,権力の本質をなす軍隊の中心であり続けていたのも中級勤務人層だった。のみならず,1630年代には彼らよりさらに位階の低いポサード民(商工民)から徴募され火器で武装した下級勤務人層も,しだいに軍隊の中核になっていく。こうして,多様な社会層が国制の中に組み込まれていくことになるが,農民だけはここから排除されていた。こうして,専制政治と農奴制で特徴づけられるロシア独特の,住民の大半を排除した形での社会統合=「国民」国家形成は進んだと考えられる。
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Causes of Carryover |
B-A=307円となっている。その理由は以下のとおりである。研究代表者の場合,物品費の大部分は書籍代とりわけロシアからの購入書籍代である。旧ソ連では,あらゆる書籍が,事前に予約をとりその部数のみを出版する予約出版制であった。ロシア連邦ではその伝統は崩れているが,それでも専門書に関する限り,これと大差ない状況にある。この場合,①発行部数が極めて少ないこと,したがってわが国でそれを確実に入手するには,②ロシアと取引のできる数少ない取次店に予約を入れることが必須である。それでも,当該書籍がいつ刊行されるのかは,多くの場合取次店にも不明であり,発注から入手まで,数か月~1年以上の幅がある。また,刊行されても,実際に入手するまでに日数がかかる。その結果,発注した書籍が,年度内に納入されなかったり,入手したときにはすでに当該年度の予算の執行を終えてしまっている場合も珍しくない。今回の事例もこれに当たり,一部の書籍がすでに予算の執行を終えた時点で届けられたものである。そのため,当該経費については次年度の支払いとならざるを得ず,そのために既述のような事態となったものであり,当該金額は新年度に執行される。
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Research Products
(1 results)