2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K03161
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
浅野 明 山形大学, 人文社会科学部, 名誉教授 (90133909)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ロシア史 / 17世紀 / 専制政治 / ミハイル・ロマノフ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,社会統合の前提となる中央権力の確立について究明した。その成果が「17世紀前半期ロシアの国家・社会・戦争―五分の一税をめぐって―」『山形大学歴史・地理・人類学論集』第20号(2019年3月)15-35頁である。 1634年,軍隊の再建を緊急の課題としていたミハイル政府は,「五分の一税」の徴収を試みた。この制度は都市の富裕な商人たちが動乱時代に始めた自発的な醵金にすぎず,そもそも一般庶民にはなんの関わりもなかった。ところが,ミハイル政府はこれを新税として大規模に導入しただけでなく,一般庶民はもとより,余剰をほとんど持たない農民層にまでもその支払いを強制した。当然,社会の側からは激しい抵抗があり,1回目の徴収はまったくの不発に終わった。しかしこのあと,政府はこの税制について,社会の要望に対して大胆な改変を繰り返し実行することで対応した。これは,政府による,社会との「対話」の試みであり,その結果1630年代には,ついにこの税を従来の税制の一部として社会に受け容れさせることに成功したのである。この研究の意義は次のところにある。第一に,五分の一税はわが国ではまったく研究されておらず,本研究が最初のものである。第二に,新税制の導入・確立の過程をとおして,1620~1630年代におけるミハイル政府の権力の確立過程の一端を具体的に明らかにできた。これは,この時期がいわゆるツァリーズムの確立期でもあったことを考慮すると,その後二百年以上にわたってロシアの歴史を規定した政治体制の基礎構造あるいは政府の基本的な政治姿勢を明らかにする第一歩でもあった。これが第三の意義である。 なお,外国文学研究者との研究会にも継続して参加した。研究代表者も19世紀のロシア社会の実相について,ツルゲーネフの『猟人日記』を素材に報告した。(2018年6月2日於:早稲田大学理工学部メディア・ルーム)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究が比較的順調に進捗していると判断できる理由は,2017年度および2018年度の2年間にわたって,当初の計画どおりに研究成果が公刊されていることによる。それが可能であったのは,設定された研究課題について,本研究開始以前から,基本的な文献と史料を収集していたこと,その後も必要な資・史料をおおむね順調に入手できていることによる。本研究に関しては,在京の主要な大学に関連史料や文献があるのみならず,近年では海外からの文献の入手も可能となっており,今後の研究のための準備も順調に進捗している。とりわけ本研究の最終年度(2019年度)については,研究対象とする「全国会議」に関連する史料集も公刊されており,主要な文献とあわせてその入手をすでに終えている。また研究成果発表の場としては,今年度も,一昨年度および昨年度と同様,かつての勤務先であった山形大学人文社会科学部の雑誌『山形大学歴史・地理・人類学論集』を利用することができる(査読あり)。昨年度の研究成果も,本年1月に脱稿した論文を,2か月後の3月には公刊することができた。 以上の理由から,予期しない理由によって研究活動が停滞する可能性はほとんどないといえる。 また,これまでも研究代表者の研究の特徴として重視してきた外国文学者との交流も引き続き行われる。のみならず,本年度には,これまでの数年間の交流活動の成果を,一書として世に問う準備作業も開始される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究の最終年度となるので,新たな研究課題を追究するとともに,これまでの研究成果を総括するものとしたい。研究の成果と方向性は,次の3つにまとめられる。1)研究初年度は,1630年代のロシアについて,政府をとりまく国内外の政治状況はきわめて不安定であったことを明らかにした。権力の継承は,粘り強い交渉によってポーランドからミハイルの帝位の承認を勝ち取ったこによってかろうじて実現したのであった。2)研究2年目の昨年度は,財政政策を素材に,そのミハイル政府による社会統合の過程について検討した。政府は,軍備増強のために,一般税制としてはふさわしくない五分の一税を強引に導入しようとした。この政策に対して社会の側は激しく反発し,政府の計画は事実上頓挫した。しかしここで,ミハイル政府は,対ポーランド戦争のときと同様,粘り強く,しかも柔軟に社会との「対話」を行った。その結果,ミハイル政府は,新税制を従来の税制に適合させる形で妥協にこぎつけ,大きな収入を期待できる新税制を社会に受容させることに成功したのである。ここで示されたのは,いわばロシア的な社会統合の一つの実例にほかならなかった。3)そこで次の課題は,ロシアにおける社会統合のために設立された機関を正面から取り上げることになる。それが,わが国では全国会議と訳されてきたゼムスキー・サボールにほかならない。本研究が扱った17世紀前半は,このサボールがもっとも活発に活動した時代であり,政府が社会の声にこれほど耳を傾けた時期は,ロシア史上ほかにはなかったといっても過言ではない。本研究では,まさにこの時代について,政府が社会とどのように「対話」したのかを,具体的に検討したい。そしてそれは,ロシアにおいてツァリーズムという,はなはだしく均衡を欠いた社会統合が,どのようにして「実現」することになったのか,という問題の解明に道を開くものとなろう。
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Causes of Carryover |
B-A=33,406円となっている。その理由は次のとおりである。研究代表者の場合,物品費のかなりの部分が書籍代,とりわけロシアからの輸入書籍代である。旧ソ連では,あらゆる書籍が予約出版制であった。ロシアになってからも,専門書に関する限り予約出版制が基本的に維持されている。この場合,発行部数が極めて限定されることが避けられず,したがって,わが国でそれを確実に入手しようとすれば,ロシアと取引のある数少ない取次店に予約を入れることが必須である。しかし,ロシアの出版事情から,ここで問題が生ずる。まず予定価格がそもそも提示されていない場合が珍しくない,そのうえ,当該書籍がいつ出版されるかは多くのばあい取次店にも不明であり,発注から入手までの日数として,早ければ1か月程度,遅ければ優に1年以上かかると考えておかねばならない。また刊行されても,実際に書籍を入手できるまで一定の日数が必要であるし,入手して初めて正確な価格が分かるのが普通である。このような事情から,発注した書籍が年度内に納入されなかったり,入手したときにはすでに当該年度の予算の執行を終えてしまっていたりする場合も珍しくない。そこで計画的に予算を執行し,取次店に対しても速やかに支払いを行うためには,一定の金額を次年度使用として確保しておく必要がある。次年度使用が生じた理由は,以上のとおりであり,当該金額は新年度に執行される。
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Research Products
(2 results)