2018 Fiscal Year Research-status Report
19世紀南フランスにおける山岳地復元・保全と酪農組合―公益・私益の対立と融和―
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17K03162
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
伊丹 一浩 茨城大学, 農学部, 教授 (50302592)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 19世紀 / フランス / オート=ザルプ県 / 荒廃山岳地 / 酪農組合 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.前年度に引き続き、19世紀フランス・オート=ザルプ県における山岳地の植林や酪農組合に関わる文献を調査した。1840年代に関連分野での画期となるシュレル『オート=ザルプ県の渓流の研究』の第5部について、綿密な検討を行い、従来、指摘されていた植林への志向だけではなく、作業の簡易化や草地化への転換など柔軟な対応を示そうともしていたことや、牧野住民への配慮や牧野の具体性を維持しようとする提案も含まれていたことを明らかにした。 2.あわせて、パリ近郊のフランス国立文書館に、2度にわたり、手稿史料の調査と解析を行った。19世紀から20世紀初頭にかけての山岳地の植林事業や山岳地の復元・保全事業に関わる行政史料の分析を行った。事業区域設定に当たり作成された森林官による現況報告、事業計画や地域住民に対する意見聴取に関わる調書、コミューン会議事録、特別委員会議事録、大郡会議事録、県会議事録などを分析し、オート=ザルプ県の各地で事業に対する反発が、1860年法においても1882年法においても生じていたことを明らかにした。 3.その中で、特に、県中北部オルシエール事業区域における区域改訂をめぐる紛争と、県西北部デヴォリュイ地方のドゥラック=シュペリウール事業杭域における新区域設定をめぐる軋轢について、状況の解明を行った。 4.以上の分析を行いつつ、2018年12月に学術雑誌『水資源・環境研究』に「フランス南部山岳地ブリアンソネにおける灌漑の特徴と紛争の意義」と題する論考を発表した。また、同年5月には社会経済史学会において「19世紀南東フランス・オート=ザルプ県における荒廃山岳地の植林・草地化と酪農組合の普及に関する研究」と題する研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.これまでに、19世紀フランス・オート=ザルプ県における山岳地の植林や酪農組合に関わる文献のうち、すでに検討したブリオのものに加えて、シュレルの書物を、特に、中心的な部分となる第5部を詳細に検討したところであり、さらには、その続編ともいえるセザンヌの著作の分析にも着手しつつある状況で、おおむね順調に分析が進んでいる。 2.また、フランス国立文書館において、1882年法制定時における事業区域改訂にかかわる史料を分析し、県内各地の当時の現地の状況や改訂の様子、その中で、特に、オルシエール事業区域について、地域住民の動きと軋轢の経過などについて明らかになりつつあるとともに、その地に建設されていた酪農組合施設に関しても営業実態や管理の様相、補助金交付における山岳地の植林事業との関係などについて検討を進めつつあり、おおむね順調に分析が進んでいる。 3.さらに、同じく、フランス国立文書館において、20世紀初頭にオート=ザルプ県で実施された新区域の設定にかかわる史料を分析し、県内各地の当時の現地の状況や新区域設定の様子、その中で、特に、ドゥラック=シュペリウール事業区域について、住民の動きや区域設定に対する反発などについて明らかになりつつあり、おおむね順調に分析が進んでいる。 4.これらの解析に基づきながら、関連分野の有力な学術団体である水資源・環境学会において論文を発表し、社会経済史学会において研究発表を実施した。こうした活動を受けて、現在、学術著書の刊行に向けた作業を進めているところである。 5.以上のような進捗状況に鑑みて、自己評価を「2.おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.まず、山岳地の植林や酪農組合に関わる文献の解析を引き続き行う。主要文献となるブリオやシュレルに続くものとして、セザンヌやビュフォーのものを詳細に分析し、比較検討を通じて、荒廃山岳地の復元・保全における酪農組合普及の位置づけの変遷を跡づけ、その背景や意義について剔抉する。 2. 続いて、酪農組合の普及に関して県文書館や国立文書館に史料が多く存在するので、模範組合を中心に、いくつかを事例として選定し、詳しい分析を行う。特に、上記で述べたオルシエール事業区の所在地には、森林行政の働きかけにより、複数の酪農模範組合の施設が設立されており、多額の補助金も交付されている。そして、それが荒廃山岳地の植林事業実施に当たり、住民からの要望を受けたものである可能性があるため、そうした実態について調査を行う。加えて、県会議事録や県文書館所蔵の手稿史料を援用しつつ、他の酪農組合施設も含めて、経営の展開と挫折とを跡付け、こうした政策の持つ意義と限界について、公益と私益との融和の現実と課題、ひいては、フランス社会の性格や資本主義経済のあり様と関連付けながら検討を行う予定である。とりわけ、牧野の具体性剥奪に対する反発を受けて、抽象的な価値の付与を目指すこととなった行政の意向が鍵になると考えられるが、そうしたことについて、上記文書館所蔵の手稿史料やコミューン会、県会、中央議会などの議事録の分析を通して解明する予定である。 4.そして、以上の分析結果を基にして、関連学会での報告を行い、学会報告を基にして、学術論文の投稿、あるいは学術書の刊行を目指して作業を進める。
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Causes of Carryover |
効率的に文献調査を行い、88,737円の未使用額が生じたが、年度末に、この額を使い切ることは適正性の観点から望ましくないと考え、次年度に使用するべきであると判断した。なお、使用計画としては、2019年度分として請求した助成金とあわせて、本補助事業遂行において必要となる物品や消耗品等の購入にあてることを予定している。
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