2018 Fiscal Year Research-status Report
『悦楽の園』にみる12世紀ヨーロッパのダイアグラム的思考術とその波及
Project/Area Number |
17K03165
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
千葉 敏之 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20345242)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ヨーロッパ史 / 中世史 / 思想史 / ダイアグラム / 女子修道院 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画「『悦楽の園』にみる12世紀ヨーロッパのダイアグラム的思考術とその波及」は、12世紀末にアルザスの女子修道院ホーエンブルクで編纂された百科全書的編纂物『悦楽の園』内のダイアグラム頁の構成を手がかりに、パリ大学をハブとして流通したダイアグラム写本の波及経路をヨーロッパ全域にわたって跡付けるとともに、12世紀ルネサンス期に固有の、パリ大学を拠点に育まれた思考術(ダイアグラム的思考術)の内容・形成過程を明らかにすること、またパリ大学を経由してアルザスに向かったこの思考術を最も良く体現する『悦楽の園』を、ホーエンブルク修道院における女子修道士の生活・信仰実践との接合という観点から再読することによって、12世紀ルネサンスの知的達成が波及先の地方においていかに受容されたか、その実態を解明しようとするものである。 平成30(2018)年度は、まず最初に前年度までに収集できなかった研究文献・刊行史料の発注を行なった(「ダイアグラム関係図書」)。4月から9月までの前半期は、前年度の作業を補完する期間とし、10月から3月までの期間は、作業5)12世紀ルネサンスのアルザス方面への波及経路の確定とダイアグラム写本の使用法の解明に取り組みつつ、前年度までの成果との突きあわせ作業を進めた。夏期には、12世紀ルネサンスの最初の拠点であるベルギーのリエージュを中心とする学問のネットワークの解明、ならびにパリ―イングランド間の『キリストの系図』写本の伝播経路を確定するために、ベルギー、イギリス、フランスに出張し、経路上の拠点修道院・司教座の実踏調査を行なった。その成果の一端を論文として執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究成果(アルザス・ホーエンブルク修道院を中心とする学術ネットワークの解明)を踏まえ、当初の海外調査計画を修正したうえで、これを夏期に実施した。この調査により、パリとイングランド(とくにカンタベリ大司教座)との人材・学問の伝達経路の存在に加え、アルザス(ホーエンブルク)からベルギー(リエージュ)を経てドイツへ、また北フランスを経てイングランドへ至るサブ・ルートの存在をおおよそ跡づけることができた。このことは、本研究計画全体にとって重要な成果といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目・2年目の海外での調査、および現地で蒐集した史料・文献の分析の結果、12世紀ルネサンス期の知の流通のさらなるルートとして、第1回十字軍に参加したフランス騎士や知識人、十字軍の結果成立した十字軍国家(エルサレム王国、アンティオキア侯国、アッカ、ティルス等の港湾都市)を媒介とする知の流通ルートの存在が明らかとなった。そのため、3年目にあたる2019年度は、聖地の各施設を実地調査し、このルートと『悦楽の園』の成立との関係を明らかにしたい。
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Research Products
(4 results)