2017 Fiscal Year Research-status Report
Democracy and Reciprocity: between Public and Private in 4th century Athens
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17K03173
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
栗原 麻子 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00289125)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 互酬制 / 公共性 / レトリック / ギリシア / 民主制 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)女性にとっての市民権や公共性の意味を考察する論稿「遊女ネアイラと市民権」を、『歴史と地理』上に、公刊した。 (2)ギリシア文化研究所総会(11月9日、東京大学)において、法の有効性と碑文との関係性についての報告をおこなった。報告内容自体はすでに国際学会で報告済であったが、新たに報告をおこなうことで、国内の研究者に研究内容を公表することができた。 (3)これまでの研究を一書のかたちにまとめる草稿を執筆した(ただし加筆訂正の余地がある)。その結果として、アテナイにおける日常的な人的構造が、いかに公的な言論の場である民衆法廷で、「互酬性のレトリック」のもとに統合されていったのか、公私の関係性のメカニズムを浮き上がらせることができた。 (4)公私の関係性をとらえるために情報伝達に注目し、比較のために「メディアとコミュニケーション」研究会を開催した。4月から2月にかけて、関西および名古屋の若手院生・PDを中心としたメンバーとともに、アテナイはもとより、ボイオティア連邦、プトレマイオス朝期のエジプト、ローマ支配下の小アジア、共和政期ローマにおける情報伝達にかんする計11本の報告を受けて、石刻資料、書簡、弁論、それらが公開される都市空間の関係性を踏まえた議論がおこなわれた。とりわけ、書簡という、閉じられた伝達形式による文書が、他都市に伝達され、しかも公開される文書の変容と受容について、比較の可能性が導かれた。また、他時代との比較のために、中世イタリアの説教について、ゲストスピーカーにお話しいただき、文字と口承のあいだの関係性についても、研究課題として認識することができた。また、研究会の成果として、私自身も証拠情報についての考察をおこない、国際学会(3月・ギリシア・カラマタ)で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の公私関係の変容をめぐる研究成果は、(1)女性と市民権の関係についての考察、(2)民主制下アテナイにおける法の伝達についての考察、(3)それらにこれまでの研究成果を加えて、前4世紀アテナイの互酬的構造のもとに総合すること、(4)公私の関係性をとらえるうえで重要となる情報伝達に注目し、比較のために「メディアとコミュニケーション」研究会を開催したこと、の4点に集約される。なかでもこれまで、前4世紀アテナイにおける公私関係について書き溜めてきた論稿を総合し、必要な加筆・訂正をおこなった。それと並行して、4月から7月には、女性と市民権の関係について、論文を執筆した。当初、この仕事は独立した論文として用意していたものであったが、結果的に、前4世紀アテナイにおける公私関係について考察するために重要なパーツとして再構成することができた。 さらに11月に、文字とコミュニケーションについての研究の一環として、11月に前403年の民主制の回復時のアテナイおよび、前4世紀におけるキオス島のスタシス(内紛)における法の破壊について、報告をおこない、意見を交換した。また、同じく文字とコミュニケーションに関して、研究会を開催し、計11本の報告を得た。わたくし自身も、法廷弁論における定型表現の利用(「富国強兵」についての明治日本と前4世紀アテナイの比較研究)および、民衆法廷における噂と伝聞証言についての報告をおこなった。また後者に関しては、3月に「証言」と根拠についての国際学会(ギリシア共和国、カラマタ)で報告して好評を得た。 これまでの研究が具体化するとともに、とくに情報伝達に関して、当初の計画を超える研究の広がりとあらたな着眼点がみられた。いっぽう、ヘレニズム時代のアテナイ外部についての個人研究を本格的に開始するにはいたらなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)研究成果の総合については、出版社との相談のもとに、完成度を高めるために訂正を加える。なおそのために必要な作業のほとんどについては、計画通り本年度中におこなう。そのために2018年度夏もしくは春(時期は研究の進捗状況による)に、オクスフォード、ロンドンおよびアテナイにおいて調査をおこなう。 (2)メディアとコミュニケーションについての比較研究会を継続し、その成果を公開する。ひとつは科研4年目にあたる2020年度にたとえば日本西洋史学会等において小シンポジウムを設定したい。さらにその成果を雑誌もしくは論文集のかたちで拡大的に公刊する。その際に、科研費を用いて海外からも研究者を招へいする。そのための調整を2019年度におこなう。 (3)証人についての報告をさらに発展させて、公刊する(ただしスケジュールについてはシンポジウム開催側の事情に左右される)。 (4)公私関係の変容についてヘレニズム・ローマ時代への展望を得るということが、本科研のもう一つの目標であり、そのためにロードス島、コス島の事例を、家族史的な視点から収集することが必要となる。2019年度、2020年度に集中的に取り組む。 (5)最終年度に向けて、ヘレニズムのギリシア世界における公私の関係性について、家族史からの史料収集をおこなう。
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Causes of Carryover |
年度末から年度初めにかけての国際学会報告のための経費が予想よりも少額で済んだこと、研究会のための謝金が少額で済んだことから、結果的に残額が生じた。繰り越し分は、物品費および謝金として使用する。
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