2020 Fiscal Year Research-status Report
Democracy and Reciprocity: between Public and Private in 4th century Athens
Project/Area Number |
17K03173
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
栗原 麻子 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00289125)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | アテナイ / 互酬性 / リュクルゴス / 公私 / メディア / 法廷 / レトリック / 感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)本課題研究の目的の一つは、アテナイにおける、紀元前4世紀後半にいたる公私関係を、法廷弁論の網羅的分析によって「互酬性」、「敵意」および「友愛」をキイワードとしてまとめることであった。紀元前5世紀末以降の法廷における家族・ジェンダー・紛争解決・市民統合といった諸問題が、法廷でどのように表明されているのか、また公的言論形成の場としての法廷で、公私領域の区分が、どのように説得にもちいられていたのか、ということについてのひとつの見取り図と示し、『互酬性と古代民主制ーアテナイ民衆法廷における「友愛」と「敵意」』として公刊した。これによって、アテナイの民衆法廷における公私関係の理解に新たな切り口を提供するとともに、リュクルゴス時代の新機軸とみなされてきた、私的な敵意と公的な敵意の分離、受動的市民性の強調といったヘレニズムに通じる新しい兆候が、大きくはそれ以前からの社会構造の枠組みとの連続性のもとに理解しうることを、法廷での言説を通じて示した。 (2)公的空間における感情の表明についての検討を継続し、嘆きとエロス(恋情)に関して、公刊した。 (3)リュクルゴス時代の公私関係について得られた構図を、ヘレニズム以降の展開に結びつけ、法廷弁論が担っていた公的な言論としての性格と、この時代に顕著になる立碑行為を理解するために、比較研究の場として、前近代におけるコミュニケーションとメディアに関する研究会を、2020年度も継続した。オンラインで、計4回の研究会を開催し、記録の保管と政治制度との関係性や、都市の法文書の管理、広場の形成といったトピックについて、中世史研究者も交えて議論を交わしたほか、日本西洋史学会の小シンポジウムで、演説と都市のトポグラフィーや、書簡の公開、冠授与といった個別のトピックについて、「間メディア性」を共通の手がかりとして、情報の公開性・公共性の問題を検討することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ流行により海外での文献調査および研究交流が遮断されている状況下で、本来計画していた渡英および招聘が実現できず、発展的課題として設定していた、ヘレニズム期の公共性についての研究の開始が、渡航禁止により、遅延している。比較のための共同研究の折り返し地点として設定していた日本西洋史学会が半年遅れての開催となったことから、全体の進行がその分ずれ込んだ。また、主たる課題であったリュクルゴス時代の公私関係について、まとめることができたこと、感情史研究との接点を得たことにより、個人的なことがらを公的に表明するという法廷弁論の特質について、新たな論点を発展させることができた。また、日本西洋史学会の小シンポジウムでは、テキスト間関係を考察することによって、公私の交錯するメディアのありかたを比較するための基盤を形成することができた。これらを総合するならば、おおむね順調に推移しているものの、外的状況による遅延がみられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)前4世紀アテナイの公私関係に関してワークショップの開催を予定していたが、キャンセルとなったため、今年度に向けてオンラインでの開催の可能性も含め、検討を進める。 (2)個人でおこなう研究としては、単著への書評、合評会等(7月、9月に予定)を受けて、論点のさらなる精緻化を目指す。また、リュクルゴス時代の公私関係にかんして、時代の転換点を同時代的にどのように位置付けるのかという時代認識の問題、直後のファレロンのデメトリオスの時代の位置付けといった積み残しの課題を片付けるとともに、基礎資料となるこの時代の弁論のさらなる精読と翻訳を進める。 (3)発展的課題としてヘレニズム時代の公私関係(とりわけ東地中海域のギリシア都市における公共奉仕と、公的領域への女性の参加)についての資料収集を、可能な限り早く実現し、期間終了後への展望を見出したい。
|
Causes of Carryover |
渡航制限および入国制限により、2020年5月の招聘と国際シンポジウムが中止となったため、予定していた旅費および国際会議費(通訳含む)が不要となった。また同じく英国への研究滞在についても延期した。延期した渡英を状況が許すようになった段階で実行する。また2020年度11月に開催予定であった国際研究集会についても日程の再調整をおこない実現を目指す。経費の一部は、課題継続のために研究を更新するための図書費、共同研究継続のための旅費にあてられる。
|