2021 Fiscal Year Research-status Report
Democracy and Reciprocity: between Public and Private in 4th century Athens
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17K03173
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
栗原 麻子 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00289125)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 互酬性 / 噂 / 証言 / ジェンダー / アテナイ / ギリシア / 法廷 / 感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
単著への書評・合評会(7月、9月)の結果、①著書が明らかにした法廷での互酬性の「たてまえ」についての考察を、レトリックを超え、あらためて、より実践的・動態的な法廷戦略に関する従来の研究と接続すること、、②法廷外的な言説空間に研究対象を広げること、③リュクルゴス時代の公私関係を、より長期的なギリシア世界の公私関係のなかにどのように位置づけることを新たな課題として設定した。そのうち、①は、これまで法廷戦略を規定する理念を浮かび上がらせるためにあえて捨象してきた法廷戦略を考察に取り込むことを意味している。そのため、まずは伝デモステネス第59弁論に基づいて、説得と戦略の関係性を捉え直した。②については、ヘロドトスにみるオプシス(実見)とアコエ(伝聞)の対比を出発点として、同時代の情報認識のなかで、法廷における伝聞証言のありかたを再検討し、De Gryter社のTrends in Classicsシリーズに掲載した。また③については、前4世紀のジェンダー構造に焦点を絞り、ジェンダーをとりまく公私関係について論稿をまとめることで、近年盛んになっているヘレニズム・ローマ時代の都市共同体における女性の参画のありかたとの差異をあきらかにした。 なお、「敵意」「友愛」についての分析においては、感情的要素を拝していたが、法と感情の関係性に考察対象を広げ、公的言説空間における感情の制御について、考察し、その成果を公表した。 加えて、ヘレニズム。ローマ時代の都市共同体の公私関係について検討するためにおこなってきた「メディアとコミュニケーション」研究会の対象を西洋中世史研究者に拡大し、2022年度は4回の研究会をオンラインでおこなった。公私を結ぶメディアと都市空間の関係性に着目することで、政治構造を理解することができる趣旨のもと、関連する個人研究として、「噂」の利用についての検討を継続した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた公私関係についての検討事項は完了し、発展的課題として設定したヘレニズム以降のギリシア世界との比較を共同研究の形で展開することができたため、研究は、おおむね順調に進展している。ただし、2020年度に予定していた女性市民権についてのワークショップが、コロナ対策による来日延期により未完了となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1古典期アテナイの公私関係を、ジェンダー視点から、ヘレニズム・ローマ支配下のギリシア世界における女性の公的活動についての近年の研究を踏まえて再解釈する。 (2)市民権に着目し、①状況が許せば、延期が続いている女性市民権についてのワークショップを企画するとともに、②養子制度と市民権の関係について国際学術誌に論稿を投稿する。 (3)メディアとコミュニケーションを軸として、情報伝達における公私関係についての共同研究を継続する。 (4)法廷戦略について検討対象を広げ、「噂」の利用について、これまでに収集した基礎データに基づき、論考をまとめる。 (5)ヘレニズムの入り口であるファレロンのデメトリオスの時代の位置付けについて、引き続き情報を収集する。
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Causes of Carryover |
渡航困難による研究遅延および、実施予定であったワークショップ延期によって当該助成金が生じた。延期となっているワークショップ実施のための経費として50万円を、そのための研究のアップ・トゥ・デートおよび共同研究継続のための経費に当てる。
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